ま2だ

ペンギン・ハイウェイのま2だのレビュー・感想・評価

ペンギン・ハイウェイ(2018年製作の映画)
4.4
ペンギン・ハイウェイ、観賞。

フィクション方向に創造力を発揮するために、物語がファンタジーやSFのフォーマットを採用する例は、洋邦問わず枚挙に暇がない。ただその多くは、設定だけ借りるか、或いは設定のディテールに淫するか、のいずれかに大分できるように思える。

本作ペンギン・ハイウェイではSF+ジュヴナイルというジャンルには決して珍しくはない方程式を用いて、空洞化しがちな、設定と向き合う姿勢そのものを上映時間を通して丹念に描き続ける。

一足飛びに未知との遭遇以降に向かいがちなストーリーを抑制して、未知との対面のフェーズに留まり続けること。シン・ゴジラやドゥニ・ヴィルヌーヴのメッセージなどを引き合いに出したくなるタイトなスタイルだが、ジュヴナイルと組み合わせることで、未知の解明ではなく向き合うことそのものに重心を移動することに成功している。正解よりも過程に重きを置く、という意味では義務教育的である、ともいえるだろうか。

そう考えると劇中で、ペンギンや海と同じ重みで語られ検証されるお姉さんのおっぱいや、幼い妹によって突然ぶっ込まれる死への畏怖の配置にもなるほどなと思わされる。我々は主人公アオヤマくんの視点を通して、未知との対話をトレースしているのだ。

本作で絵のダイナミズムをある程度犠牲にしながらも根気強く描かれる、快/不快に関わらず、知らないもの/他者を短絡的に切り捨てずに、対象に向けた想像力を巡らせることは、我々の生きる現代の、そして子ども達が生きる未来の社会のコミュニケーションにとっても極めて重要な要素に思える。

その意味で、コミュニケーションの余白、つまり二次創作的な快楽に向けて観客の想像力を駆動させがちな近年の商業的アニメーション作品の中にあって、ペンギン・ハイウェイの進む道のりはなかなかに硬派だ。

過程を重視したSFという観点でみると、そう簡単に未知の正体が判明するようなわかりやすい着地にはなっていない。が、だからこそ本作観賞後に、親子で、また友人同士でこの映画について同じ土俵に立って語り合うことはすてきな事であるように思える。

ドラえもんの登場人物たちを遠心分離器にかけたような各キャラクターの造形も興味深く、のび太が出来杉くん的視座に立って再構成されたドラえもんのエピソードのようにも感じられる。しっかりとひと夏の成長を遂げる思春期手前の少年少女の物語としても抜かりがない。

もうひとつ素晴らしいのがエンドロール。映像なしで、宇多田ヒカルの書き下ろし曲「Good Night」にきっちり尺を合わせることで、この曲の歌詞や脳内に喚起する映像が、本編のアナザーエディションにも後日談にも感じられるなんともリッチで極上の幕切れだった。彼女の歌詞における「僕」の特徴的な立ち位置がとてもよく伝わってくる。彼女のファンにとっても有意義な時間だろう。
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