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希望の灯りのmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

希望の灯り(2018年製作の映画)
4.1
映画館で予告編を見た時に、好きそうな雰囲気だったので気になってたものの結局見逃してしまって悔やまれます。

タイトルの感じや無表情で無口な主人公、人物どうしの距離感なんかはカウリスマキっぽさもありますが、ハンガリー映画の「心と体と」に映像や全体の雰囲気が似ていると思いました。

ドイツの大型スーパー(コストコみたいなの)が舞台になってて、高い棚がずらりと並ぶスーパーの倉庫など、無機質で冷んやりした感じで、全体の描写も淡々としています。

フォークリフトでの商品の移動が何度も何度も映され、フォークリフト映画と言って差し支えないでしょう。
スーパーの商品管理というお仕事ムービーでもあり、こういうのはとても好物なので楽しく見れました。

タトゥーだらけの無口な主人公クリスティアンがスーパーに見習いで入ってきて、先輩従業員のブルーノから仕事やフォークリフトの扱いを教えてもらいながら、にこりともせず喋りもせず、静かに仕事が進んでいきます。

隣のお菓子セクションの女性マリオンに一目惚れし、少しずつ距離を縮めるも、中学生か!ってほどにシャイで奥手なクリスティアンが微笑ましく、ブルーノとも口数少なく愛想なしなのに信頼し合っていく感じも、淡々としているのに情を感じます。

このスーパーがある所はかつては東ドイツで、ベルリンの壁が崩壊した後東西ドイツが統一しましたが、この巨大スーパーは西側の資本主義を象徴しているようです。
若い世代のクリスティアンには東ドイツ時代のことがピンと来ませんが、ブルーノにとってはその時代が懐かしく、統一によって生活や仕事が激変し、二度と戻ることのない失ったものへの寂しさや喪失感、郷愁を抱えながら生きているのです。

クリスティアンもブルーノもマリオンも、他の従業員達も、それぞれが心に抱えるものがあり、孤独でもあるのですが、新しい時代に乗り切れない市井の人々が、ゆるく結びついて、互いの寂しさをそっと埋めてくれる、そういう関係があたたかくてじんわりときました。

あと、フォークリフトの教習用の教材ビデオがB級ホラーみたいでシュールで笑えました。
あのせいで、そのうち誰かがフォークリフトにヤラレる伏線になってるのかと思ってドキドキしてしまいました。

映像も美しく、いろいろありながらも毎日仕事をする働く人々が愛おしくなる作品でした。

109
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