新潟の映画野郎らりほう

空母いぶきの新潟の映画野郎らりほうのレビュー・感想・評価

空母いぶき(2019年製作の映画)
3.7
【条文の旗幟】


戦っていたのは本当に東亜連邦なる者達だったか。
私には人と“人ならざる者”の戦いに映ったが―。


焦燥/逡巡/葛藤/苦悩 ― 多くの登場人物がその表情にそれらを湛える中、相貌に微笑を宿し劇中唯一表情変わらぬ秋津(西島秀俊)にある疑念が浮かび上がる―『彼は本当に人間なのだろうか』と―。

作戦方策を巡り秋津と議論が紛糾した新波(佐々木蔵之介)が口にする『そんな事は同じ自衛官として許さない』。
キャメラはその後も佐々木を捉え続け彼がもう一言口にする事を示唆する。
その一瞬(時間にして二秒ほど)の間に“彼が次に口にする言葉”が私の脳内を駆け巡る。
無表情/無感情で人間味に欠ける秋津に対し新波は屹度こう言う筈だ『“人間”として許さない』と。
―秋津が人外である事の仄めかし。

絵空の連邦が相手である事で、より一層際立つ人と人ならざる者の討(闘)議。そこで人は、常に右往左往し 悉く彼の後塵を拝す。

彼はAIか、将又 空母いぶきの意思か。如何様にも解釈可能だが、私には“条文の旗幟”に映った。


条文をどう解釈し運用するのか ― 理想の条文(秋津)を発布(配置)さえすれば 安泰無事な 条文任せの思考停止に陥る事勿れ。
今は未熟な初心者でも 決して討議を止めるな。愚直に思考し続けよ ― 人こそが、否「私」こそが ―。


眼耳塞ぎ狸寝入りの蒲魚決め込むだけで 容易に安心平和が獲られるなら さぞかし便利 ーconvenienceー だろうに。




《劇場観賞》