踊る猫

未来を乗り換えた男の踊る猫のレビュー・感想・評価

未来を乗り換えた男(2018年製作の映画)
3.9
例えば(敢えて小説を喩えに出すが)ポール・オースターがかつて描いた、主人公/語り手の孤独が身に沁みるような不条理な小説を思い出す。もしくは安部公房やカミュ。寓話的と言えるし、それ故に多様な読み方を許す映画であると思った。現代にファシズム(厳密にはナチズム?)が蘇ったらどうなるかというディストピアを描いたものとして。あるいは不法移民や難民の現実を描いた映画として。いずれにせよ、追われる者/余所者の死と隣り合わせの生を焦燥感を以て描きつつ、そこに奇妙に間の抜けた長閑な空気を交えることも忘れない造り手の姿勢に惹かれる(と書いて、意外とこの映画は北野武『ソナチネ』にも似ているのではないかと思ったが、流石に悪ふざけがすぎるか?)。ただ、どのようにも解釈できるということはこちらに切実に来るようなドラマを描きえていないということに繋がるのではないか。なるほど自殺の場面やサッカーの場面が巧く活きるドラマにはなっていると思うが、もう少し鮮烈なシーンやショットの強度が欲しいと思った。志の高さを認めるが故に、その志が作劇のトリッキーな凝りようだけではなく映像面にも現れていればなおよかったかな、と。ないものねだりかもしれないが……。
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