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アイネクライネナハトムジークのsilentのネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

波乱の展開!とか、最後にまさかの大どんでん返しがある!とかでもない、ごく普通のありふれたお話。なのに、見終わった後とても暖かくて優しい気持ちになれる、不思議な映画。
たまにはこういう世界に浸るのもいいと思う。主役の佐藤がいい味 出してます。

2023 春 ドリパスにて

円盤も持ってるし、WOWOWでも
観ているけど、劇場で観るのは初めて。

平凡だけど一人ひとりに大事な出会いが
あり、小さな奇跡をいくつも
巻き起こしている。

物語中盤、いじめられっ子だった
ひ弱な男の子が木の棒をへし折るくらい
逞しくなった。かつての自分を
優しく励ましてくれた元チャンピオン、
小野学へ無言ながらも最大級のエールを
送り、小野もまた沢山の観客の中で
あの時の少年を見つけ、手話で
「大丈夫」のサインを返す。
推すもの、推されるものの尊い姿が
そこにはあって、私は涙が
止まらなかった。

そして終盤では、いつも軟弱な佐藤が
自分の揺るぎない意志で動く。
愛する彼女の為、必死に食らいつく
ようにバスを追いかけて、あともう少し
という所で、恐らく転倒して
泣きじゃくる小さな子供に声をかけて
しまう。いつも友人や先輩に気を使って
ばかりの佐藤のこうした優しさは
時に弱さとなって仇となったしまう。
が、普通の象徴のような
彼の最大の武器が、この優しさなのだ。
思えば、あの時虐められていた少年を
助けなければ、少年も小野も
自分の前にある苦難に立ち向かおう
とは思わなかったかもしれない。
ほんの少しの出会いと優しさが
小さな奇跡を連続的に巻き起こす、
現実ではあまり見られない
ファンタジーな世界観。
最後はほんのり心が暖まるような、
素敵な作品だと思う。
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