silent

ディア・エヴァン・ハンセンのsilentのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

人の心のうちは分からない。
何故コナーは死んでしまったのだろう。

幼い頃から適度な距離感で自分を
見守ってくれた義父がいたのに。
自分の内在するモヤモヤを吐き出す
ことが出来た妹もいたのに。
何なら、あるがままに全肯定してくれた
母もいたのに。

数日前威圧的に接した、ただ同じ学校
の生徒に過ぎなかったエヴァンのあの
手紙を、綺麗に折りたたんで
胸ポケットにしまっていたのは
何故なんだろう?
偶然か?それとも何かのメッセージか?

でもここで、安易な推理や考察を
展開したいわけではない。
それだけ、人の心のうちは複雑で
解析不能なのだ、ということが
言いたい。

人には家族が気づくどころか、
自分自身でさえも直視出来ない、
把握できない『何か』があるのだろう

大切なのは、分からなくても
寄り添おうとする気持ちが
本当にあるのか、ではないだろうか?
そして、助けを求める側も
救いの手を差し伸べる側も
真剣な気持ちでなくてはならない。
特に助ける側は、曖昧で中途半端な
まま行動を重ねていたら、
余計な嘘とか浅はかな同情で
助けを求める側の
気持ちを更に傷つけかねない、
ということをこの映画は教えてくれて
いる。

エヴァンは優しいけれど、
取り返しのつかない嘘を吐いた。
でも、全てが明るみになった後の彼の
行動が良かった。素直に嘘を認め、
死して会話も成り立たないコナーを
理解しよう、寄り添おうと彼なりに
努力した。

結果、全肯定の母親ですら聴いたこと
がない、コナーの曲を見つけられた
のだ。
その時、静かにそっとギターを奏でる
コナーの心の中に、
たしかに温かな『光』があったのだ
と思う。
彼の知られざる一面を切り取った
動画は、遺された家族にとっても、
救いの一つになっただろう。
すんなりと許されている訳ではない
ようだが、私は
エヴァンなりに嘘の代償を払ったと
感じた。

何より、目下に広がる果樹園の風景が
今は無言を貫くコナーの
心情に重なっているようにも見えた。
もし、そこにコナーがいたのなら、
軽口を叩きながらもエヴァンと楽しい
一時を過ごしていたかもしれない。
また、コナーやエヴァンのように
孤独に苛まれる人達が心を寄せ合い、
慰め合えるような、心の拠り所として
あの果樹園が存在してくれるのでは
ないか?
そんな希望のような気持ちを抱えさせて
くれたまま、映画は終わった。

邦画もそんなに見ないが、洋画なんて
もっと見てない私が、後半ぼろぼろと
泣いた。

奇しくも、私の好きな俳優がこの作品
の舞台を観て、大層気に入っていたと
聞く。

「うん、好きそうだよね?こういうの」
誰となく、心の中でそっと呟いた。
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