小松屋たから

パラレルワールド・ラブストーリーの小松屋たからのレビュー・感想・評価

3.4
皆さんの評価、低めですね…

原作はかなり前に面白く読んだ記憶があって、映像化と聞いて、一体、どうやって成立させるのか興味津々だった。

映画を観終わったあと、あれ? 原作はもっとバッドエンドだったような…と思って、書店で最後だけ読み返して(すみません。立ち読みしました)、実は事象としてはそんなに変わっていないのだけれど、映画では、原作にはない「君の名は。」風の、あるシーンが存在するために、その印象が変わったんだということが分かった。

原作では、記憶や経験の集積こそが人間なのか、それとも、人間とはただの「箱」に過ぎず中に詰め込むものによっていくらでも変容しうるものなのか、という、生命科学的、哲学的な葛藤が物語の主軸であり、人間の存在そのものを問うことが大きなテーマになっているが、映画では、その点はあまり追究せず、ラブストーリーの収拾に重きをおいたとも思われる。

興行的成功を考えてのことなのだろうが、結局、この映画のいくつかのアプローチ、特にラストシーンを明確に「是」としてしまうと、もうなんでもアリで、何度でも同じことができるし、また起こりうることにもなる。そうなると主人公とヒロインがかなり自分勝手に見えてくるので、せっかく若い役者たちが熱演しているにも関わらず損をしているということはないだろうか。そのあたりが、評価が低い理由のひとつかも。

ただ、この原作をこの尺に纏めるにはきっと大変な工夫と才能が必要で、脚本家は、決して失敗はしていないと思う。電車のすれ違いが象徴する人間の感情と行動のわずかなずれが、やがて取り返しのつかない事態を招く、という原作の大きな流れは踏襲されているし、時間と空間が行ったり来たりするトリッキーな展開、主人公へ仕掛けられる厳しい罠もきちんと描かれていた。

でも、確かに、すごく面白いです!とも言いにくい…。上手く言えないけれど、この難しい原作をなんとか力技で形にしようとしたスタッフ、役者陣の苦労、苦悩が、スクリーンというエンタメ化フィルターを通すことなくそのまま押し寄せてくる、そんな感じだった。

しかし、20数年前に出版された原作のテーマが現代に通じる東野圭吾という作家の持つ力には素直に驚かされる。