リコリス

ともしびのリコリスのレビュー・感想・評価

ともしび(2017年製作の映画)
4.3
鬼気迫る孤独の培養器を観察しているような。演技に見えないヒリヒリ感。

私も小さい頃、「愛の嵐」のポスターに異様に魅了された一人(その後、映画を実際見ても、あのポスター以上ではなかった…)

この映画も日常崩壊モノで、今までは生活の中心であった夫がどうやらペドフィリア絡みで収監され、家族から疎外され、更に社会や日常がじわじわ今まで通りに持続出来なくなり、夫の酷い真実も知り、遂には自分から日常を投げ出す(ように私には見えた)、どんどん惨めに孤独になっていく老女の話。トイレで号泣するシーンよりも、台所で枯れかけた百合をゴミ箱に捨てたり、地下鉄で感情剥き出しの若者を見ない振りをしながら聞き入ったりする表情に絶望感を感じた。特に最後に砂浜に打ち上げられたアレを見る、自分でもどうしようもない、泣けないが全てから疎外されている感じの時、何かの啓示のように見たくもないものを見せられ、驚きながらも笑うしかないような追い詰められた感がヒリヒリ伝わってきた。

アンナは生き直す(最後は希望と自分主体に歩き出す? どうやら、そう誘導したい邦題)なんて出来てないと思う。今まで絶望の底にいたのが、上を滑るように絶望と共にある。そして繰り返す日常は更にカサカサして温かみが感じ取れなくなり、それに人は慣れていくのだ。慣れと生き直しは違う。

一番刺さったのは、プールのシャワーのあと、ロッカールームでストッキングを履くシーン。水着から着替えた人たちがそれぞれバラバラに何かを考えたりしながら同じ場所にいる。いるだけで皆一人。身体を動かした後の高揚と何となく感じる孤独と、あの表情見るだけで、映画見てよかった。辛すぎる内容だけど。

孤独で内面は助けを求めたくても、それを拒否・遮断するような無表情の自己防衛。電車の中のアンナみたいに、私も外からは見えているのだろうか。同じ場所で同じモノを見聞きしているのに、一人ひとりが内面に辛さを抱えている。何とも言えない。日本人も他者との境が高い。叫んでみたら、どんなに楽だろう。「一緒にいて。手をつないでハグして。話を聞いて。お茶でも飲んで。」
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