NAO141

博士と狂人のNAO141のレビュー・感想・評価

博士と狂人(2018年製作の映画)
3.6
初版発行まで70年以上の歳月を費やして編纂され、世界最高峰の辞典として知られる〈オックスフォード英語大辞典〉。
分冊で少しずつ出版され、完全版の出版までに70年以上を費やした大著である。この辞典の画期的な点は、ひとつの単語の意味や文法的な記述だけではなく、どの時代にどういう用例があるかを示し、言葉の使われ方の変遷を示したところにある。〈言葉〉とは我々人類そのものであり、多くの言葉が誕生し続け、多くの言葉が消滅し続ける。辞典というのは人類の叡智そのものであるが、人類が繁栄し続ける限り、そこには常に言葉が在り続けるため、〈辞典の完成〉というものはないが、我々を我々たらしめている言葉というものを編纂するということ、そのことがすでに偉業である。

本作は実話ベースの作品であり、〈オックスフォード英語大辞典〉編纂に携わったマレーとマイナーの物語である。
作品としてはどうやって辞典を編纂していったのか、という部分を描くシーンは意外と少なく、メル・ギブソン演じる学者マレーとショーン・ペン演じる精神を病んだ殺人犯マイナーの友情を中心に描いているといった印象(もう少し辞典の編纂部分を描いてほしかったというのが正直なところ)。メル・ギブソンとショーン・ペンという大物俳優の演技力は良く、とくに精神を病んだマイナーという人物を演じるショーン・ペンの演技力は見事というしかない。
マレーの妻やフレディ、マンシーなど魅力的な人物も多数登場する。
一つだけ(個人的に)少し違和感があるのはマイナーに夫を殺害されてしまったメレット夫人がそのマイナーを愛してしまうという点。作品の尺の問題もあるが、夫を殺害した人間をそんなに簡単に愛することが出来るものであろうか…と思ってしまった苦笑

本作は〈言葉〉や〈文字〉の持つ素晴らしさを描いている。
言葉はあらゆるものの源。
言葉が違えば見えているものも違う。
言葉が変われば考え方も変わる。
言葉は生き続け、変わり続ける。
我々の思考そのものである言葉は文字として記録されていく。
辞典とは言葉の意味や語源を調べているだけではなく〈人類とは何か〉という究極の問いに挑むもののようにも感じる。
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