もものけ

ライトハウスのもものけのネタバレレビュー・内容・結末

ライトハウス(2019年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

荒れる海を渡り"灯台守"の仕事をするためにやってきた二人の男。
ベテランの灯台守である老人に付き従う若者は、4週間という間に孤島で見習いをする新人であるが、横暴な態度が鼻につく老人へ若者は次第に不満を募らせてゆくのだった…。






感想
個人的に大好きで何度も鑑賞しております「ウイッチ」を製作した若手の才能溢れるロバート・エガース監督が”The VVitch”に続いて”The Lighthouse”という”The”を用いた綴りが続きますが、タイトルにも綿密なこだわりをもった謎の多い内容が特徴でございまして、考察が楽しくなる作品。

音響効果でおどろおどろしい雰囲気を見せることが秀逸なロバート・エガース監督。
そしてその映像美も斬新なスタイルを確立しており、場面転換を用いずにオフスクリーンにある被写体へ向けて、スタティックショットで撮影していた映像を突然ステディカムを用いたブレの無いドリーショットへ変換させて、観客の視点に流れるように被写体を登場させて驚かせる手法は秀逸。
謎を孕んだストーリー制と映像美、音響効果がマッチされて描かれる狂気の世界観は凄まじいものがあります。

灯台守の交代勤務4週間を通して描かれる狂気の世界。
二人の登場人物と灯台のロケーションのみで構成されながら、観客を不安にさせて進むストーリーに釘付けになってゆきます。

物語の舞台が1800年代末期ということで、この時代にあえてモノクロ・フイルムで撮影して画面サイズを1.19:1という古めかしい手法ですが、35mmフイルムと最新技術で撮影された映像美が、古さと新しさを両立した不思議な感覚。
こちらもまた新旧の世代がキャスティングされて、二人の演技が対立し始める人間性を演じる演技力のぶつかり合いのような構図にもなっております。
このモノクロで四角形の映像を用いることによって、灯台守という仕事の孤独な閉鎖的さと分かりづらいモノクロ映像が、観客の想像力を高め一種の小説を読んでいるように摩訶不思議な物語へ様々な肉付けを脳内変換で行い怖さを増すように工夫されております。
狂気を描いているドラマなのに、ホラー映画となっている表現は見事です。

ここからは個人的な考察になりますが、この「ライトハウス」は罪を犯して孤独に灯台守の仕事しかなくなって年老いていった男が、過去と対峙して狂気の世界に取り憑かれてゆく寓話的おとぎ話です。
主人公がトーマスという名前であり、老人と同じ名前と明かされるシーンは、二人が同一人物であることのメタファーではないでしょうか。
老人は虚言癖がありますが同一人物であるならトーマスの木こりの仕事で親方を殺した話も嘘です。
トーマスは灯台守として見習い期間に親方と揉めて、若気の至りで反抗して殺して埋めた過去に取り憑かれてしまいます。
トーマスは灯台の島から逃れられない一生を、罪から逃れられないように過ごす監獄に囚われた囚人です。
若さ故の過ちを振り返って老人となり、戒めるように自問自答しながら神の審判が訪れる日を待って、ひたすら灯台守の仕事をこなす虚しい日々を過ごして次第に孤独から狂気に取り憑かれてゆきます。
そしてラストには罰が彼に与えられて物語は終わります。

物語で登場する逸話や日誌など、意味深な表現が想像を掻き立ててゆきます。
予言の力を持つ海神プロテウスと、創造の神プロメテウスが物語を一層とホラー・チックに映像で禍々しい存在です。
そして日誌は実際に起きた事件をモチーフにされたアイテムであります。

ギリシャ神話に登場するプロメテウスは"ゼウスの反対を押し切って人間へ天界の火を盗み出して分け与えた"神で、作品で描かれる若者と老人の"カモメを殺すな"という意見を聞かないで破滅する構図のメタファーです。
そして"怒ったゼウスによって生きたまま肝臓を鷲に啄まれる苦行を強いられる"神話が、ラストシーンであるカモメに肝臓を啄まれるシーンになります。
同一人物であるトーマスの心理的葛藤は、"善"と"悪"の人間の持つ二面性の葛藤でもあります。
どうしても欲しかった灯台の"灯り"は、プロメテウスが人間へ与えた"火"でありますが、トーマスは欲する余りに近づき過ぎてゼウスの怒りに触れて天界から落とされるかのように、階段を転がり落ちてゆき罰を受けます。
この欲しくてたまらない"火"は、トーマスが犯した罪から解放される告解を聞いてもらい、心の"自由"のことだったのでしょうか。
しかし彼の選んだ場所にはもう誰も居ない灯台の島。

灯台というのは心理的表現では男性器の象徴とも言われております。
老人はトーマスには絶対にそれは譲らず、女の仕事ばかりさせられたトーマスはウンザリしております。
物語はこの二人が男としての象徴を奪い合う争いを延々と続けており、これはトーマスが親方を殺すまでの過去として表現されております。

ラストシーンは若いままのトーマスがカモメに啄まれておりますが、孤独から気の振れたトーマスは若い頃から時は止まったままなので、彼の妄想の世界では老人ではなくトーマスのままだからという解釈をしました。

何度も鑑賞するとまた違った捉え方ができそうな傑作です。

もしかしたら神の罰を受けたトーマスの殺人からの一日が経過する物語かもしれないし、海神が棲む島に辿り着いたトーマスが罰せられるまでの寓話かもしれません。
とても興味深い作品で、5点を付けさせていただきました!!

アリ・アスター監督と並ぶホラー映画界の新鋭。
その才能には次回作も愉しみになってしまうほどでございます。
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