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教誨師のumisodachiのレビュー・感想・評価

教誨師(2018年製作の映画)
3.7
今年亡くなった大杉連最後の主演作にして、最初で最後のプロデュース作品。死刑囚に寄り添う教誨師と死刑囚たちとの対話が綴られる。

大杉連扮する教誨師は、プロテスタントの牧師。教誨師になってまだ数か月で、自身も葛藤しながらそれぞれの死刑囚と対話していく。登場する死刑囚は6人。諦めている人、罪の意識が全くない人、妄想にとりつかれている人、歪んだ使命感に囚われている人など、6人のキャラクターや意識は様々だ。そして、ついに1人の死刑執行が決まる……。

最初のうちは、なかなか対話が核心に迫らないので各人の罪の内容が分からない。しかし、徐々に見当がつくようになっていく(ただし、きちんと本人の口から詳細が語られるのは1人だけ)。と同時に、教誨師自身の過去や罪悪感も明らかになっていく。このあたりの語り方は非常に上手いと感じた。わざとらしさが全くない。

それだけに、途中までは「これは舞台の方がよかったのでは?」と思いながら見ていた。シチュエーションは同じだし、基本的には2人だけの対話のみで構成されているので、これ以上舞台向きの作品もなかなかないのでは?と感じたからだ。しかし、途中から印象が変わった。死刑囚との対話がより深くなり、表情や細部が重要な意味を持つようになっていき、さらには教誨師の回想シーンが差し挟まれるのを見て、「ああ、これはやはり映画だからこそできる描写だ」と考え直した。

全体的に、ストレートでありながら説明しすぎていないところが良い。特に、相模原の事件をモチーフにしていると思われる死刑囚との対話は、潔いほどに直球勝負。死刑制度が存続していて、貧困と格差が拡大している現代日本だからこその「いま作るべき映画」だと言えると思う。人が人を裁くとは?罪とは?対話とは?救いとは?それらの根源的な問いに真正面からぶつかった良作。ラストシーンもよい。最後の最後に登場する外の風景に、教誨師の極めて人間くさい部分と作品の最大のテーマが溶け込んでいく。大杉連の【顔】が最大に生きる印象的な幕切れだった。

なお、キリスト教の要素も当然のことながら多く差し挟まれているのだが、聖書を全く読んだことがないと理解しづらい部分もある。特に、終盤に出てくる「ある言葉」の説明が全くないので、もしかしたら死刑囚の言葉だと誤解する人がいるかも。あれは、ヨハネの福音書の一説なので注意(磔になる前段階でイエスが発した言葉)。また、途中で登場する『ザアカイさん』という絵本のザアカイとは、イエスによって罪を悔い改めた税の取立人の名前。あと、イエスと共に磔になった2人の罪人のエピソードも登場する。それらの聖書のエピソードや言葉が、どれもこれも途中までしか説明されないので、全く知らない人からしてみると気になるかもしれない。

また、役者の芝居を堪能でいる映画でもあった。6人の死刑囚それぞれ演技が凄まじいのだが、基本的に1VS1の対話なので、全体のバランスを考える必要がない。しかも、死刑囚という極端なキャラクター設定なので、全員が120%のパワーで芝居している。全員が甲乙つけがたいほど素晴らしい演技を見せてくれていて、それだけでも感動。
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