さうすぽー

人間の時間のさうすぽーのレビュー・感想・評価

人間の時間(2018年製作の映画)
1.0
自己満足点 9点

今年の圧倒的ワースト1位。
観ていてこんなに怒りが込み上げたのはいつ以来だろうか?

※普段自分は過分なネタバレを含んだレビューを書かないようにしていますが、本作に関しては一切人に勧めたくないので、完全ネタバレ込みで書きます。


藤井美菜とチャン・グンソクを主演に迎えたキム・ギドクの新作映画ですが、自分はこんな作品を作り上げたキム・ギドクが許せないです。

それ以前から、正直言うとキム・ギドクは監督としてあまり好きではなく、「メビウス」と「殺されたミンジュ」は嫌いだし、世間から評価されてる「嘆きのピエタ」もそんなに好きでは無いです。
ただ、前作の「The Net 網に囚われた男」は稚拙な所はあれど設定が興味深くて面白かったです。なので、少しだけ彼の評価が自分の中で上がってた頃に本作を知り、知ってる日本と韓国の俳優も出ているので鑑賞しました。

...ですが今は、少しでもキム・ギドクに期待した自分を殴りたいです。


まず、冒頭から酷い。
話の内容は「ある日突然クルーズ船が空に浮いて外部との通信が取れない状況となり、人々が飢餓状態になっていき、善悪の境目が無くなる」という内容は宣伝で書かれていました。

クルーズ船と言ったものの、豪華な客船ではなく何故かボロい軍艦に乗っており、藤井美菜と恋人役のオダギリジョーは「新婚旅行」で船に乗ったという設定。その時点で「?」という感じですが、他のお客さんは皆韓国人で韓国語なのに、韓国人に日本人二人の日本語が通じてるというお粗末ぶりには開いた口が塞がりません。

まぁ...でもそこはファンタジーとして無視するにしても、問題はまだまだ沢山あります。
チャン・グンソクやオダギリジョー等の有名俳優が出演してるにも関わらず、全員が演技下手またはワンパターンという杜撰さ。
そして、登場人物達が発する台詞回しは説明的だし、自分の主張を押し付け過ぎていてリアリティに非常に乏しいです。
後で詳細を書きますが、空に浮かぶ前の夜のエピソードもまた長い上に最悪です。
ちなみに、オダギリジョーは食事に文句を言ったことで、ヤクザに因縁を付けられて殺されるので序盤しか登場しません。

そして、ようやく船が空に浮きますが、浮いてから乗客の食料問題に発展しますが、何故か政治家がヤクザとつるんで船の事を仕切り始めます。そして、自分達のみ良い食べ物を使った高級そうな料理を食べている場面は社会風刺とも捉えることも出来ますが、そもそもその料理は誰が行っている?
乗務員と対立してるので乗務員が作ってるとは到底思えないです。
だいたい食料が底を尽きる可能性があるのに「権力にしがみつきたい」という理由で威張るのは「コイツらバカなの?」と本気で思います。
そもそも自分達も食料が尽きる可能性があるのに豪勢な食事取ってたら自分達の首を絞めるだけです。

映像についても、
カメラのフレーミングは汚いし、後半の暴力表現や人肉の描写についても韓国映画にしては弱いし、映像表現も彼の作品の中でも素人臭いです。

ここからが自分が一番怒りを感じた所ですが、
船が空に浮かぶ前日の夜に、藤井美菜がオダギリジョーと夜の営みを行った後に、何人もの人にレイプされるんです。
ヤクザや政治家、政治家の息子役のチャン・グンソクにまでされてしまうので、何とも胸糞悪いのですが、観ていてあまりにも安直でした。
あと何故か女性は藤井美菜以外は風俗嬢ばかりだし、ラストでも藤井美菜は自分が産んだ子供にも犯されそうになるし、ここまで女性に対しての扱いが酷くて安直な映画もあまり観たこと無い。
そういった性暴力の場面を安直に描く描写は個人的に大嫌いで、この時点で観るの止めようかと考えるくらい憤りを感じていました。

そして、藤井美菜がチャン・グンソクに自分を犯したのかを問い詰めると「許して下さい」という発言。
ここで怒りが頂点に達しました!
そして、藤井美菜が後半であっさりチャン・グンソクと行動してる辺り、この監督は性暴力を働いても謝れば許されると思ってるんですかね?

その下りで思ったけど...
キム・ギドク、お前全然反省してないだろ!
「メビウス」で女優に告発された事件のことで一応謝罪してるそうですが、今作の藤井美菜をはじめとした女性達の描写を観ると反省してるようには全然感じられないです。
もうこれさ、自分が起こしてる事件をそのまま自作に落とし込んで「許してほしい」みたいに描くのって監督として、いや人としてどうなのよ?
本当にクソ野郎だよ、キム・ギドクは!💢


自分はてっきり船が空に浮いてから「人間の負」の部分が出てくるとばかり思ってましたが、最初から人間の「負」ばかり描いていて、キム・ギドクは人間のそういう所しか見れないのか、「負」の部分にしか興味ないのかとしか思えないくらい偏見的に描かれているところがこの映画においての最大の問題点である気がします。

まだまだ突っ込みたい所もあるし、本来ならこの映画に対して1点も付けなくなかったのですが、人間が飢餓状態になった際に暴走していく様は稚拙ながらも少しリアルに描けてたので加点しました。一応。


「人間の善悪」の物語にしては負の部分しか描いてないし、胸糞映画にしては「ファニーゲーム」や「アレックス」のような胸糞の描写に意味を見出だせる作品にもなってないし、何もかも低俗で怒りばかり感じる映画でした。
韓国では未だに公開されてないそうですが、こんな映画は上映しなくて正解です。

キム・ギドクには本当に失望させられた作品で、今後新作を作っても観るのが憚られます。

(追記 12月17日)
キム・ギドクが逝去されたので、今作が遺作になりました。
気の毒ではありますが、今作への評価は変わることはありません。まさかこんな駄作映画が遺作になり、本国の名誉が回復されないまま逝去したというのは何とも皮肉に思えます。

2020年映画ワースト10「第1位」