記録。
そこで「女優」であるということ。
イランの”映画制作を禁じられた”名匠ジャファル・パナヒ現時点での監督最新作。
前作『人生タクシー』同様に車内でのシーンが多めながら、本作は野外での撮影も敢行。パナヒは勿論、主要キャストは実名での出演であり、導入から暫くはミステリーライクであるものの、進行につれてドキュメンタリーのような印象も持つだろう。
女優になる夢を断ち切られ、失意から首を吊る若き女性。スマホの自撮り動画によるその映像は、冒頭から不穏なインパクトを残す。
この動画を入手したパナヒと女優ジャファリが彼女の死の真偽を確かめに村へ赴くところから映画は幕を開ける。
以降はドラマとして劇的な展開や波というものは存在しない。しかしながら感じ取れるのは、本当にさりげなく、それでいて強烈に炙り出す古来の風習のダークサイド。
規模の大小問わず「文化」というものは難しい。例えとして適切かは勘弁願いたいのだが、食文化というのが分かりやすいかもしれない。犬を食う、鯨を食う。これらも当事者にとっては立派な文化であり、外野から安易に否定あるいは物言いして良いものか個人的には懐疑的だ。
従って劇中で起こる一切について意見するのは遠慮したいと思う。とはいえ一言残すとすると、只々不条理に思う、だ。
パナヒがSNSで受け取ったメッセージが制作のきっかけとなったらしい本作。これは恐らく作家パナヒがアーティストの視点から見つめた実情の提起と同志へのエールだ。
個人的には趣味ではないというのが本音。しかしながら強烈だ。