優しいアロエ

ドッグマンの優しいアロエのレビュー・感想・評価

ドッグマン(2018年製作の映画)
3.8
ドッグサロンを営む気弱な男マルチェロ。娘や町の仲間、犬たちとのひとときにささやかな幸福を感じて生きているが、町一番の暴君シモーネともつるんでおり、、
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まず取り上げるべきは、犬たちの素晴らしい演技である。ボクサーやチワワ、プードルなど多種多様な犬が本作には登場するが、主人公マルチェロの言うことを聞かずに暴れたり、逆に手懐けられたりといった振る舞いが自然かつ印象に残るもので、世界観を作り上げるとともにマルチェロの善良性を感じさせる素晴らしいはたらきだった。カンヌの選考委員もこの年のパルム・ドッグには頭を悩ませずに済んだのではないだろうか。

そして、暴君シモーネに対するマルチェロの心理の変化。これが本作のメインテーマだ。
2人の関係を雑に語れば「のび太とジャイアン」。シモーネはジャイアンの悪い部分だけを凝縮したような人間なのだが、マルチェロは彼を裏切ることができない。ちょっとしたことでシモーネが親切な人に思えたり、可愛そうな人に思えたりするのか、自分を犠牲にしてまで彼を庇ってしまう。この微妙な心理を描いた中盤は割とよかった。

そして、最終的にシモーネを見限り、ドッグサロンの設定がそう活きるのかという中々にアンチコンプラな展開を迎える。このあたりも結構よかった。

だが、最後の主人公の行動は説得力に欠けるだろう。殺害したシモーネを見せることで町の仲間からの信頼を回復しようとする。気が狂ったとしてもこの思考に至るのは馬鹿だと感じた。最後は「元々は自分が悪い訳ではないとはいえ、罪を犯した人間にかつての幸せは帰ってこないのだ」というメッセージだと受け取ったが、新鮮味は感じなかった。

娘とのダイビングのシーンは唐突だったが気に入った。大して綺麗な海ではないのだが、時間を贅沢に使って映しており、その尺の長さから今が彼にとって至福のときなのだとしっかり伝わった。
優しいアロエ

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