一人娘の誘拐事件の謎解きサスペンスものかと思いきや(勿論その要素も多分に含んでいますが)、親族のみならず村人達を巻き込んでの疑心暗鬼によるパワーバランス崩壊の一部始終をスリリングに捉えた、正に絵に描いたような極上の"人間ドラマ"でした。
舞台は閉塞感のある小さな村。…であるが故に誰もが皆共通認識として持ってはいるが口には敢えて出さなかったある"それ"が存在します。そこに当事者以外誰も知らなかったある"それ"が知れ渡ることで沸き起こる人間模様の微妙な変化が今作の白眉となっています。
内容は違えど自身の身内から似たような"それ"を聞かされた経験のある自分にとって、ハビエル・バルデム演ずるパコにはどうしても感情移入せずにはおれませんでした。
「俺に任せろ!」的な頼り甲斐のあるタフな男…では決してなく、世間体や軋轢に悩み苦しみながらも男性としてというよりも人としての責任感や覚悟を背負った彼の立ち振る舞いや後ろ姿には胸にグッとくるものがありました。
誰もが知らなかった"それ"を知ってしまったら…、その後のこの家族や親族の行く先は、
神のみぞ知るー。
ラストカットも何かそう言いたげに感じて、心がヒリヒリさせられました…。