小松屋たから

アラジンの小松屋たからのレビュー・感想・評価

アラジン(2019年製作の映画)
4.3
もちろん制作チームが違うのだろうが、「くるみ割り人形…」を観た時の物足りなさがなんだったのか、と言いたくなるぐらい、期待通りの楽しく華やかな「ディズニー実写」だった。

首を傾げる部分はある。「アラジン」というよりは完全に「ジーニー」。アニメと比べても、自身の恋愛話が加わったジーニー=ウィル・スミスの存在感がより大きくて、ほぼ一人芝居。ジャスミンは確かに現代的で魅力的だが、肝心のアラジンは抜け目の無さが薄れ影が薄く、「ダイヤの原石」という根拠も分かりにくかった。悪役・ジャファーもなんか頼りなくて、キャラクターのバランスはまったく良くなかった。

でも、それらを越える「魔法」が確かにあった。

やっぱり、映画やエンタメに大切なのは何より「世界観」だな、とつくづく思う。この映画の中には、間違いなく「人間」がいて、確かな町の息遣いがあり、ある一つのコンセプトに基づいて構築された「社会」がある。

優れたCG技術、多額の予算がありながら、上手く使いこなせていない作品も多くある中、ディズニーはやはりその最大限の活用方法を良く知っている。いくら「ビジネスアート」と揶揄されようが、しっかりした背骨があるからこそ世界中が迎え入れてくれる。

また、女性の自立、自己の確立、アラブ世界への気配りなど、同じ作品でも、その時代や社会情勢、技術に都度、内容をアジャストさせていくディズニーの意識の高さは、それがたとえビジネス要請からであれ、多少強引であれ、やはり見事だと思う。

…なんてことを偉そうに考えながら観ているうちに、邦画は実写のアクション大作とかは無理に作らなくていいんじゃないかと思えてきてしまった。彼我の差が大きくなり過ぎた。

少なくとも「邦画にしては頑張っている」という評価を誉め言葉として使うのはもう辞めようと思う。元々の歴史的背景や文化的土壌が異なり、さらには、予算がマーケットからの逆算であり、技術の集積が国家規模の軍事・産業開発の賜物である以上、何年経っても、同じ土俵では闘えないだろう。

邦画はもっと別の繊細な手練手管で存在感を出すべきだ。実際、それでうまく行っているケースもたくさんあるのだから。