ま2だ

ワイルド・スピード/スーパーコンボのま2だのレビュー・感想・評価

3.7
ワイルドスピード スーパーコンボ、鑑賞。

人類を滅亡させうる殺人ウィルスを持つ女を追ってCIAやらMI6やらが大騒ぎ。過去100回くらい聞かせれたプロットそのままに進行するため、どこで寝落ちしても大丈夫な安心設計。シリーズからカー愛と友情を抜いた結果、割と平凡なテンプレスパイものに着地している。

では本作の最大の特徴であるホブスとショウの筋肉共同戦線が、この平凡さを覆すことができているか?と言われると、いくつかの理由でそれほど上手くいっていないかな、という印象だ。

敵同士が共闘を始めるというベタな関係性の主役2人だが、凸凹ならぬ凸凸の組み合わせなので、共闘にせよ対比にせよ、あまりバリエーションが広がっていかない。ショウがなんだかんだでホブスの土俵に上がってしまっているのが、メリハリの無さを呼んでいる。

ワイスピ本編ではここに更に似たような筋肉キャラのヴィン・ディーゼル演じるドミニクが加わるわけだが、他の仲間やカーアクションを挿入することで、要素を分散させ上手く緩急をつけていることがわかる。

つまりどんなに人気キャラだろうが、仲間とクルマあってのホブスであり、ショウである、ということだ。

筋肉の映画であるという印象に対して、意外なほどセリフが多い映画に仕上がっているのもそのへんの構造的弱さを補うためだろうが、結果口先だけの映画という印象を強めてしまっている。ゲースロネタバレおしゃべりクソ野郎の存在も、キャラの魅力をでっち上げて場を乗り切ろう精神が最悪。

悲惨だなと思ったのが今回の悪役であるブリクストン。いでたちを見れば誰でもわかりそうな薄いバックグラウンドをベラベラベラベラしゃべって、魅力を大きく削いでいる。

彼に関してはイドリス・エルバの存在感と時折見せるシャープなバイクアクションに託して、無口に徹した方が確実に存在感のある追跡者となったと思う。あわよくば次作以降にも、という制作側の助平根性が透けて見えてとても残念。

この作品が、本編に比べて口先だけの映画に思えてしまう最大のポイントは家族という概念へのアプローチにある。本家ワイスピは走り屋やアウトローという仲間との絆を、ミッションを通じて後天的なファミリーのそれとして定義づけする、という構造を持っている。血縁関係への言及もあるものの、シリーズの核となっているのはあくまで仲間=家族、というヤンキー魂だ。

対して本作では家族という概念は言葉通り血縁関係を指す。それ自体はさほど問題ではないのだけれど、血縁関係はアクションジャンルの映画表現には落としづらく、映画内時間の外部設定としてしか機能しないという弱みをそのまま引き受けてしまっている。

デックとハッティ(どんな時でもマスカラとアイラインばちばち)は兄妹という設定だが、文字通り設定でしかなく、おまけに最後まで全く兄妹に見えない。これが例えばホブスとショウと彼女の三角関係という設定であれば、アクション/非アクションいずれのシーンも牽引しただろうが、兄妹という設定は完全に回想シーンにしか活かされていない。

その意味で舞台がホブスの故郷であるサモアに移ってからは、血縁との信頼回復と仲間の誕生という要素が映画内でしっかりと合致し、描かれることで俄然面白くなってくる。マッドマックスFRのカット割りの影響も感じる、ヘリ相手のカーチェイスは、仲間+クルマというワイスピならではの美学をアップデートしてみせた素晴らしいシーンだ。このシーンのために本作を鑑賞しても損はないだろう。

筋肉質に見えて意外と口先だけの部分が多い映画だが、逆説的にワイスピシリーズの獲得してきた魅力が理解できる。本作が制作された経緯を考えると、次のナンバリングにホブス&ショウは出てこないかもしれないが、それでも本家の方が全然面白いんじゃないかな。
ま2だ

ま2だ