銀色のファクシミリ

小さな恋のうたの銀色のファクシミリのレビュー・感想・評価

小さな恋のうた(2019年製作の映画)
4.5
『#小さな恋のうた』(2019/日)
劇場にて。結論から書けば「ほめるところばかりの青春映画」&「2019上半期脚本賞」。軽音楽部メンバーの物語であり同時に沖縄の基地問題が描かれる。啓蒙を目的とした「べき論」はなく、高校生が関わる「基地のある日常」を青春映画の骨子にしているのが秀逸でした。

本当にほめるところばかりで、なにより実際に行われる演奏シーン。ここを避けずに取り組んでくれるだけで5億点。練習の演奏だけでも学校中の注目を集めている実力バンドであることを、モンゴル800の「DON'T WORRY BE HAPPY」の演奏と歌唱で証明してくれる冒頭は、大満足。

さらに青春と社会問題のリアルを主軸にしながら、序盤の大きな出来事をファンタジーとしたのも特筆モノ。ある人物が直面した出来事による、強い心の揺れをファンタジー的に強調しながらも、様々あったであろう日々はリアルに描写せずに印象づけてしまう。ここの強調と省略の選択は素晴らしかったです。

基地問題は、とても慎重かつ誠実に描かれていると感じました。賛成・反対のいずれかを肯定しないかわりに、どちらかが否定的な印象を残す場面も映さない。そして「基地のある日常」から生まれた出会いを描くことで、より普遍的なテーマを、この作品に与えていると思います。

また序盤の出来事が、彼らに影響を与えていることは誰でも知っているのに、学校や軽音部の他部員が、その事で彼らに斟酌しないのも好印象。好意的な人はいても、彼ら以外の人々は法律やルール、その人々なりの事情で動いている。安易な救済はなく、リスクはリスクとして描かれているのも良きでした。

メインであるバンドの物語は、紆余曲折ありながらも成長していくので楽しく、中盤から演奏シーンで盛り上げながら、さらに深い成長が待っている。安易な夢物語にせずにリアルを描いて、本当の夢を見せてくれる。最後のステージから見えたものに贈る「あなたへ」は最高の演奏でした。感想オシマイ。

追記。メンバーの妹・譜久村舞役は、山田杏奈さん。堂々としたギター生演奏を披露する場面では、メンバーと同じく「やるじゃん」と思わせてもらいました。彼女の恋愛話が1ミリも描かれないのは、この映画で伝えたいことが明確だからだと思えました。「友達どころじゃない、バンドなんだよ」ですから。

さらに追記。バンドのムードメーカーにして縁の下の力持ち、池原航太郎役は森永悠希さん。自分的には「競技かるた部の机くん、沖縄の軽音楽部では肉まんくんみたいな仕事をするの巻」でした。航太郎も、机くん同様にいいシーンが多かったです。競技かるた部員はどこに出ていても応援してしまう。
(2019年5月27日感想)

『#小さな恋のうた』前半<後半の意見多し。主人公の内面から悲しみを強調して、過去の出来事を説明しつつ、事件後のあれこれを全部省略しても伝わるようにしたところで、自分は前半のほうが好き。あの事件をリアルに描くと社会派映画の色が強くなるし、後半の感動も弱くなったんじゃないかな。🤔
(2019年6月10日感想)

#2019年上半期映画ベスト・ベスト主演俳優
・山田杏奈/『小さな恋のうた』
中盤の心情吐露から一気に物語の中心に躍り出て、本格的にバンドに加わってからは頼もしさすら感じさせる演奏ぶり。主演はメンバー全員だと思いますがインパクトでこの人に。『ミスミソウ』と並ぶ代表作になったと思います。

#2019年上半期映画ベスト10
・『小さな恋のうた』
「基地のある日常」を生きる沖縄の高校生バンドを主人公にしたことで、より普遍性を持った青春音楽映画。これも上半期脚本賞。都合のいい夢物語で終わらず、現実を見据えたその先で、夢を見させてくれる快作。ライブシーンは必見です。
(2019年7月4日感想)