もものけ

CLIMAX クライマックスのもものけのネタバレレビュー・内容・結末

CLIMAX クライマックス(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ギャスパー・ノエ監督が大好きなんです!

振付師のセルヴァとDJダディは、主催する舞踏団のワールド・ツアー公演に出演するダンサーを募っていた。
応募してきたEU各地のダンサー達は多種洋々で素晴らしいパフォーマンスを繰り広げ、企画は成功に終わり打ち上げのパーティーが開催される。
しかし、パーティーで振る舞われた酒にドラッグが混入されており、次第に凶変してゆくダンサー達、会場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化してゆく…。


感想
目を背けたくなるような現実社会のおぞましい出来事を、ドラマティックであり映像美で性と暴力を表現する鬼才ギャスパー・ノエ監督が、96年に実際に起きた事件を元に製作した、ダンス・パフォーマンスによるアルコールへの危険を啓蒙した意欲的作品でございます。

登場人物が非常に多く短い尺の中で、冒頭のインタビュー形式でドキュメンタリー・タッチを煽りながら、キャラの個性と背景を短く印象的にさせており、前半のパーティーで赤裸々に語られる彼らの物語へと続く演出で、観客を会場のど真ん中でフラフラとアルコールを飲みながら彷徨う視点に置き、次第に変貌してゆく狂乱の様をまざまざと見せつけられる演出で、会話劇の面白さを巧みに利用しております。

業界にまみれるアルコールとドラッグ、セックスという退廃的な世界にどっぷりと浸かっているダンサー達の様子が、会話劇で描かれておりショッキングで破天荒な思想を持つ彼らの世界が、破滅と薄皮一枚で繋がっている痛々しさが伝わってきます。
ダンサーとして成功するほんの一握りの競争社会において、夢を追い続ける儚さと成功への遠い道のりから、退廃的な生活へ逃げ込んでしまっているかのようです。

インタビュー後にオープニングコールがあり、ダンス・ミュージックと共に彼らのパフォーマンスが繰り広げられますが、動きのあるカメラワークに不揃いに見える前衛的ダンスが、時折まとまりを帯びてまた別れるなど、クオリティの高いパフォーマンスで印象的です。
実際のダンサー達を起用しており、個性的なダンス・パフォーマンスですが中々キマっております。
ギャスパー・ノエ監督は、ワンショットの長撮りや、固定ショット、アングルを振り回してみたりと個性的な撮影が特徴ですが、中盤のダンス・パフォーマンスは真上からの固定ショットにより、ダンサー達の抑揚のある動きが爽快で、作品全体としてパフォーマンス映像として楽しめるものにもなっております。
そして唐突に出演とスタッフロールでア然としてしまい、これで終わりなの?といきなりぶん投げられた感覚にされますが、ここからが後半の狂乱へと続く折返しであることに斬新さが伺えます。

理性のロックが解除され、感情剥き出しのままバッドトリップするダンサー達の醜い有様を客観視することによって、アルコールとドラッグでハイになった状態を見せて若者たちへカッコよくないんだよと伝えかけるかのような演出。
もう何がしたいんだか訳が分からない状況で、カオスと化すパーティーの騒乱から犠牲者が出て、悲劇を味わった者と堪能した者それぞれが眠りにつく会場へ警察が突入してゆきます。
セックスと暴力にまみれた人間を通して、誘惑に負けやすい弱い生き物としているかのようです。

ラストは上下真逆の視点になり、観客までもが気持ち悪い不安な状態に陥り、バッドトリップを経験するかのような映像。
相変わらずブレない独特なセンスを持つギャスパー・ノエ監督らしい終わり方です。
とにかく照明効果が退廃的で不安を煽るような鮮やかな原色なので、より一層視覚から訴えかけてくるものが強く、芸術家として才能を見せつけられます。

人間は様々な負の感情にまみれて集団社会で生活しており、理性のロックを外すアルコールやドラッグを使用することの危険性を感じさせるようなスタイリッシュな作品に、4点を付けさせていただきました!
もものけ

もものけ