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斬、のumisodachiのレビュー・感想・評価

斬、(2018年製作の映画)
3.8
塚本信也監督による初の時代劇。池松壮亮主演。ヒロインは蒼井優。

江戸時代末期、とある農家に住まわせてもらっていた浪人の都築は、差し迫る騒乱の世を見据えて、江戸へ上ることを考えていた。しかし、隣家の娘ゆうや、その弟で武士に憧れている市助ら、村人たちと築いた良い関係からなかなか脱却できずにいた。そんなある日、都築の剣の腕を目にした浪人・澤村が、一緒に京へ行こうと誘ってくる。即答で快諾する都築だったが、市助も同行させるという話になり不安を覚える。

出発までの間に、村の近くにガラの悪い男たちがたむろするようになり、村人たちは怯える。都築は、彼らと親しくなることで均衡状態を保つことに成功するが、市助の行動によってその均衡が崩れ、村に悲劇が起きてしまう……。

なかなか面白かった。『散り椿』の数倍見ごたえがある。250年にも及ぶ平和な時代が終わりを告げようとしつつある日本。文武両道で剣の腕が立つ都築には、実戦経験がない。人を斬ったことがない武士であり、血気盛んな若者でもある都築。彼が持つプライドや欲望、恐怖といったものが、超至近距離で舐めるように克明に描写されていく。

『散り椿』のように完璧な構図で、美しく切り取られた殺陣は出てこない。もっと粗野で、泥っぽくて、カメラは手ブレしまくり。汗や埃がスクリーンのこちらまで届きそうな「生」の質感が印象的だった。江戸時代に暮らしたことなどないが、『斬、』に出てくる登場人物には、手を伸ばせば触れられるのではないかと錯覚するほどのリアリティがあった。体温といえばいいのかな。

かといって、大袈裟なところがないのかといえばそんなことはなく、塚本信也自らが演じる澤村や、中村達也演じるゴロツキの親玉はマンガ的ともいえるほどに極端なキャラクターだったりする。特に、中村達也は禍々しい異様さを放っていて、もはや人間なのかも疑わしいレベルの存在感だった。本業がドラマーだなんてとても思えない(まあ、ドラムを叩いているときも異様な存在感を放っているけど)。

さらに、終盤のクライマックスの演出はたっぷりを通り越して「やり過ぎ」ギリギリ。クドいか否かと聞かれたら、「クドい」と即答せざるを得ない。でも、そのクドさがいいんだなー。どうかしちゃっている塚本信也も、顔芸レベルの全力芝居を見せ続ける蒼井優も、もはや髪も何もかもボッサボサで顔面すらよく見えない池松壮亮も、どこまでも続く森も、全部良い。「映画を観ている!」という感じがして気持ちが良い。

途中で苛烈な暴力描写を挿入する余地が沢山あったにもかかわらず、そのほとんどを描写せずに、ラストのクライマックスに全力を注ぎ込んだ潔さも好きだ。持ち味である過激描写ではなく、熱量で押し切るというか。監督が表現したい世界が全面に押し出されたこういった作品は、観ていて楽しい。起承転結が明確だったり、細部に多少の疑問があっても気にならない。(ところで、なぜ都築はゆうに夜這いをかけなかったの?あまりハードルはない気が……)

それにしても、池松壮亮はいいなー。セクシャルな雰囲気を出すのが抜群に上手い。直接的なシーンはほとんどないのに(いや、あるっちゃあるか)かなりエロティックになるのは、池松壮亮と蒼井優というキャスティングの妙だと思う。元ヤングシンバだと思うと不思議な感じだ……。


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