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斬、のKKMXのレビュー・感想・評価

斬、(2018年製作の映画)
3.7
いやー、なかなかパンチのある映画でした。

ハンディカメラで画面が揺れたり、音がギラギラしていてなかなか観心地は良くないですが、それが迫力につながっているようにも感じました。

時代劇ですが、割と『怒りは怒りを来す』系の作品です。無意味な武力衝突によって、我々国民は尊厳などなく振り回され、大事なものを失っていくのだ、戦争反対!みたいなことを言いたいのかなぁ〜、なんて感じました。
あと、殺し合い始めると、明らかに何かがイカれてくる様子も描写されていて、なかなかコクがありました。

池松壮亮演じる主人公・都築は割と複雑なキャラクターというか、多重的な見方ができる存在ですね。
斬ることができず、悶々とマスをかき続ける都築は、大人になるためのイニシエーションを突破できない未成熟な若者という側面があります。だから蒼井優ともセクロスできません。
しかし、この『(親を・子ども時代の自分を)斬って大人になる』というのはあくまでもイメージの話で、本作はガチで斬る・斬らないの話なので複雑です。本当に斬ったら修羅道に堕ちるわけですし、でも斬らないと大人になれない。そして、本当に他人を斬って大人になるというのも、マチズモな価値観に染まっていくだけなので、なんとも悶々としますね。あれじゃあ、焦燥感に駆られてマスかくしかねぇな〜、なんて思いました。なんというか、都築という男と侍という身分の相性が悪すぎますねぇ。
なので、どの道を選んでも出口なしの都築さん。だから、江戸に出立する直前に病に倒れるのですよ。

前半はかなりテンションを煽ってくる作品ですが、都築のテーマが行き詰まっているため、後半は無力感や絶望感が迫ってきて、こちらも疲れてきました。

そんな中、長い黒髪を下ろした蒼井優がセクシーでした。和服に下ろした髪って、妙にエロく感じます。終盤の蒼井優は実に鬼気迫る雰囲気なのですが、一方で色っぽく感じました。これまで蒼井優に対して凄みは感じてましたが、セクシーは感じたことがなかったので新鮮な体験でした。
あと、たっつぁんが相変わらずど迫力でした。本当に怖い顔だ。キッズの頃ブランキーにはまっていたため、たっつぁんが活躍しているとそれだけでうれしかったりします。

いろいろな角度から語れる作品だと思います。やや拡散している、と言えなくもないですが、作品に渦巻くパワーが勝っている印象です。
とはいえ、どこか無力で心が乾く作品だと思いました。


後味がモヤる作品だったせいか、鑑賞後に何故かブラフマン(しかも超克以後の作品)を聴きたくなり、ガンガン聴きながら帰りました。
なんか、まるで論拠はないのですが、直観的にブラフマンが本作へのアンサーなのではないか、と感じています。

幕が開くとは終わりが来ることだ
一度きりの意味をお前が問う番だ


【追記】
ライムスター宇多丸のレビューを聴いて、ポピュリズムも本作の重要なポイントだなぁと思いました。この視点は欠けていました。
澤村的存在を欲したのは農民で、ならず者たちを退治して欲しかった。そういう無責任なタカ派ムードが結局自らを破滅に導くのだな、と実感しました。

だからこそ人類には、教育や知識、ブラフマンが必要であることを再確認しました!

あるがままの有様を見ようとせず
のたまってた見物人が偉そうに意見と語る
あやふやな人生で他人の人生をてめえのものと履き違えるな
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