【幸福の硬貨】
スリリングな視線劇。
演奏会打ち上げ後の路上。洋子(石田)と聡史(福山)の姿と、それを向かいの歩道から見つめる早苗(桜井)のカットバックに張る焦燥。
フランスのレストランで再会し窓辺の席で歓談する洋子と聡史。会話が進むにつれ 其れまで映っていた窓外の景色/雑踏は刹那 霞がかり“二人だけ”になる ― ある意味 フランスロケを無視したとも言える見事なカットバック。
豪雨の晩に乗車した列車内で 自分自身が映る窓を眼差す早苗の“惑い”と その後のビニール傘越しの窃視。
人が人を見つめる、人と人が見つめあう ― 其れを示すカットバック。映画はそれでいい。
それをせずに簡便に想いを伝えようとする非映画的ツール“スマホ”のやりとりが後半頻出するが、前作「昼顔」に於いても スマホを徹底抑制していた西谷弘が そんな愚に陥らぬ事は明らかだ。
刹那 洋子は走り出す。指先小手先文字伝達ではなく、アクション/人物動態こそ“映画”である事の表明。
そして見つめあう ― 一切の言葉を抜きに―。
映画はそれでいい。
《劇場観賞×2/観賞券当選》