のん

アルキメデスの大戦ののんのレビュー・感想・評価

アルキメデスの大戦(2019年製作の映画)
4.3
スリリングにコーティングされた業深き人間ドラマ

多くの人が誤解していると思うのだが、山崎貴監督が映画作家として最も秀でているのはVFXなどの視覚効果の演出ではない。


どんな題材もエンターテイメントとして最適化できる映画の構成力こそが監督の最大の武器なのだと私は思う。


『アルキメデスの大戦』は大胆にも冒頭に巨大戦艦の沈没のシークエンスを配置している。ここは監督および白組もかなり力を入れたであろう、『タイタニック』を彷彿とさせる極めて完成度の高い映像で、これだけで充分元を取れたと思えるほど。


と同時に本来クライマックスにいるべき場面を最初に持ってくることで、この映画のメインテーマがそこではないことをはっきりと明示している。


メインとなるのは菅田将暉演じる主人公が、巨大戦艦の建造費を暴くというスリリングな頭脳戦である。

映像的にも展開としても絶対地味にしかならないだろうと観客の意表を突いて、なかなかにハラハラドキドキの展開で最後まで楽しませてくれる。


舘ひろし、國村隼に橋爪功とベテラン勢が脇を固めている安定感もあり、柄本佑、浜辺美波ら若いキャストとのやり取りも非常に見応えがある。


さらに、この作品には最終盤に人間ドラマとしても非常に興味深い物語が展開される。原作を読んでいないので、この場面が存在するかどうかわからないが、映画を表面だけのエンターテイメントに終わらせない重層的な業の深いドラマに昇華させている。


観ていてすぐ浮かぶのは宮崎駿の『風立ちぬ』だろう。菅田将暉と田中泯(素晴らしい怪演!)のやり取りは、確実に『風立ちぬ』のテーマの裏返しで、美しさと破滅が表裏一体で、それでも狂気に取り憑かれる人々こそが本作を貫く究極のテーマなのである。
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