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ある画家の数奇な運命のチェックメイトのレビュー・感想・評価

ある画家の数奇な運命(2018年製作の映画)
4.3
これは面白かった。
現代美術の巨匠リヒターの半生とその芸術の生まれた過程がじっくりと描かれている。
少々尺が長いが必要な時間の流れがある。
恋愛ドラマという括りにされてしまいがちだが奇しくもリヒターの家族がナチの闇の犠牲になるという(ただしリヒターへのインタビューが元ネタらしいがどこまでが事実に基づくかは明かさない取り決めらしい)ことを端緒にリヒターの芸術が東ドイツの当時共産圏における社会主義リアリズムの在りように反発して新しい表現が開花する過程が描かれて美術が好きな自分には美術史にもなって興味深い。

またクルト役の役者がいい。葛藤しながらも声高に主張せずに(無論主張するのもありだがここではこの方向性に苦悩がマッチしている)疑問を持ちつつ芸術に対峙していく様を秘めた感じで好演している。

殺された叔母エリザベスの儚い美しさ、エリーの知的で芯のある美しさもいい。

何よりも主題は暴露的なサスペンス(それはそれで面白さ否定しないが)ではなくリヒターを通しての現代美術の生まれた過程と、リヒターの考え方が投影されているのかどうかは不明だが芸術の本質を語っているようにも思えた。
それは彼の通った芸大の教師の哲学や絵画を製作する描写等に現れていて美術に興味のある人間には飽きない。

写真を絵に描くということに疑問をもたずに吹っ切れるところがいい。
何を描くかは問題ではなくどう描くかに向きあうといったら言い過ぎか。いや個人的主観だがそう感じる。
求めていた絵を見いだしそれだけに突き進むのとは違うところがいい。どこか冷めているようなクルト。
だが見る人によってはストーリーにいささか抑揚がなく単調に感じるきらいはあるかもしれない。

最後、かつての叔母の奇矯な行動が彼の歓喜の表現として蘇る。象徴的でカタルシスのあるフィナーレだった。
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