ひこくろ

永遠の門 ゴッホの見た未来のひこくろのレビュー・感想・評価

4.1
ウィレム・デフォーの役作りがとにかく圧巻。
見た目だけでなく、挙動や話し方など、ゴッホとはこういう人だったんだろうと思わせるほどの説得力に満ちている。

映画の作りはかなり独特で、よくある伝記映画のように、事細かく何が起こったかは描かれない。
ゴーギャンとの同居、耳切事件など、ゴッホの転機となった大きな事件こそ出てくるが、それ以外はほぼ放浪し、絵を描き続けるゴッホの毎日と、芸術についての誰かとの対話だけが続く。
言うなれば、ゴッホの人生ではなく、ゴッホ自身の姿を延々と見せられている感じだ。

不安定なカメラワークが余計にその思いを強くする。
さらに、カメラはゴッホの視線になると画面の下半分がほやけて歪む。
これらの映像により、ゴッホの抱えていた苦悩と狂気が、視覚的に直接伝わってくる感覚を受けた。

自らを画家だと信じ、才能を信じ、絵に価値があるとゴッホは確信している。
自分だけに見えてしまうものを描くことこそ、自分の使命だと信じている。
しかし、絵はまったく売れないし、誰からも評価されない。
味方は弟のテオしかいない。
そんななかで描き続けることの恐怖と不安はどんなに大きなものだろう。

自分の絵は本当は何の価値もないのかもしれない。
自分には絵の才能なんて欠片もないのかもしれない。
けれど、ゴッホは描かずにはいられないのだ。
「自分には絵を描くことしかできない」
その言葉に彼の苦悩がにじみ出ている。

精神が病んでいくのも当然だと思う。
創作者にとってこんな地獄はあり得ないからだ。
それでも、誰からも認められなくても、おかしくなっていっても、ゴッホはただ描き続けた。
彼を天才のひと言で片づけるのは、あまりにも残酷だ。
そこには、想像もできないような苦悩と狂気がある。

ゴッホという人間そのものを映画のなかで描き出す。
これは、そういう映画だったんだと思う。
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