当初の予定では3月27日公開、実に2か月半ものおあずけを食らってようやくこの日を迎えることができたわけなんですけど、率直な感想は「待った甲斐があった…!」これに尽きます。エンドがロールしない最後の最後の瞬間まで19世紀アメリカのクラシカルな美が貫かれていて、この物語にリアルタイムで夢中になっていた遠い昔の幼かった自分のスタオベが心の中で止まりませんでした。感無量。
135分と長尺ながらも中だるみを感じさせないのは、全世界の少女たちを今なお虜にし続けるあのマスターピースが原作というだけではなくて、個々のエピソードを繋ぎ合わせるテンポの良さや過去と現在(物語と現実)をシームレスに行き来する時系列の巧みな交錯があってこそ。物語では様々な理由や戦略によって「めでたしめでたし」と位置付けられてきたストーリーをここに来てひっくり返すのではなく、現代の価値観に照らし合わせて否定してみせるのでもなく、「実はこんなバージョンもあったんでした!」と示してみせるかのようなあり方が、それはそれはもう最高だったのですよ…!
生まれ育った故郷を離れNYへ向かうジョーの姿はそっくりそのままレディ・バードの後日譚のようでもあるし、150年余りの時を経て普遍的な物語がまた紡がれていくという構図にはどうしたって運命的なものを感じてしまわずにいられません。ガーヴィグ×ローナンそしてシャラメという再タッグにはもう、いっそこのままレディ・バード・サーガを撮り続けていただきたい…!
幼少期より主に世界名作劇場で、のちに新潮文庫で本作に親しんできた身としましては、あっという間に過ぎ去っていく個々の魅力的なエピソードをこの布陣でもっとじっくり描き込んでほしい、という欲望にも抗いがたいものがあります。特に、ジョーとエイミーの諍いがスケートでの事故を経て収束するひと幕やベスとおじいさまの交流などにはもっと尺を割いて欲しかった…。さらには、海辺ではしゃぐ姉妹と男性陣たちのシーンなど夢のように淡い色彩がまことに美しく、アカデミー衣装デザイン賞にふさわしい眼福ぶりでした。あのままずっと観ていたかった、ていうかこの辺たっぷり補強されたディレクターズカット版が出たら迷わず買いますねわたしは。そこんとこよろしくお願いします。