にくそん

いちごの唄のにくそんのレビュー・感想・評価

いちごの唄(2019年製作の映画)
3.2
石橋静河さん、聡明そうで気品があって、スクリーン映えするなあ。商店街に七夕飾りでカラフルな吹き流しがたくさん提げてあって、その向こうから中学時代の女神である「あーちゃん」(石橋)が姿を現すシーン、すごく好きだった。コウタのときめきが感じられる。

古舘佑太郎くんは昭和みたいな泥臭さがあって若い頃の松田洋治ふう(『轢き逃げ』の石田法嗣くんのことも松田洋治系に分類した気がする。私はどれだけ松田洋治が好きなのか)。コウタ自身は明るいやつなんだけど、彼がけなげに生きていれば生きているほど、なぜかほのかにものがなしさも漂ってくる。劇中で明示されてはいないけど、コウタは軽度の知的障害があるのかなあとも思った。家族の接し方が、みんなで彼をいい子いい子する感じだったので。

アップリンク吉祥寺で観たら、上映前に『火口のふたり』とか『メランコリック』とかの予告編を流してくるから、これも勝手に本当は怖い映画なんじゃないかと思ってしまって。ヒロインの身に現在進行形でとんでもなく辛いことが起きているのかと暗い想像がふくらんでいたので、過去に悲しいことがあったにとどまって、なんだかほっとした。

よくこんなに小さな物語を映画にしたもんだと思う。安定の岡田惠和脚本で、今回も悪い人がほぼ存在しなかった。しいて言えば、吉村界人くんは悪そうだったかもしれないけど、くわしく描写されていないので、本当はそこまで悪い子じゃないかもしれない(自分の身に起きた珍妙な出来事を彼女に話してるしね。一緒にいないときに起きたことを、こんなことあったよって報告し合えるのはまあまあいい関係なのでは)。

ものすごく面白かったかって言われるとそんなことないんだけど、嫌いじゃない感じの映画だった。みんな優しいし。あと猫がかわいいし。脇役が豪華で、誰がどこに出てくるか楽しみにしながら観られた(クドカンさんが一瞬すぎてひど面白い。峯田さんはおいしい役取っててずるい)。カタルシスを生むシーンが、自転車で坂道くだって畑にダイブするっていう、やってる本人たちしか楽しくないやつだったのはちょっと残念。もうちょっと面白い何かだったらよかったな。
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