Cozy

ジョーカーのCozyのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.8
ノーラン監督のバッドマン3部作とは別物と考えて見るべき素晴らしい名作。逆に殺人の前の語りが好きで、銃ではなくナイフにこだわりを持っていたジョーカーにダークヒーローとしての価値を見出していた人にとっては、ノーラン監督の、いや、ヒースレジャーの影が付き纏ってこうじゃない!と邪念が入ってしまうのかもしれないな。そう言った意味では改めてダークナイトが素晴らしい映画だと認識させられるのかもしれない。
ジョーカーがジョーカーになるまでを丁寧に描くことにフォーカスを当てたドラマ性の高い作品。
きっと何度も信じる者を想い、くだびれて登っていた家に続く階段を、全てを捨て、ピエロに道化し、オレンジ色のベストとエンジのスーツで正装をしたジョーカーが軽快なダンスと音楽で降りてくるシーンは圧巻。何度でも見たい。

さて、なぜアーサーがジョーカーになったのか?
誰もに与えられるこの命題の答えは非常に鮮明であり、これこそが誰もがジョーカーになり得る可能性を秘めるものとして観客の背筋をリアルタイムで凍りつかせる。
自分はその答えを母と、憧れのコメディアンの存在と考える。いわば親でも配偶者でもよい、唯一の理解者を信じてきた過去と、コメディアンになりたいという未来を同時に失う悲痛。
その感情に観客が傾倒するのは容易い。
過去でも未来でもなく、今この瞬間、ゴッサムでは皆がジョーカーを求めている。踏み出せば皆に必要とされる。制裁の時間だ。アーサーは自分の信じた過去の象徴である母親、そして憧れた未来の象徴であるコメディアンに死を与える。この殺人は懲悪か?必要悪か?彼らが死ぬのは当然だ。見る者にそう共感じさせた時、この映画は恐ろしいほど不気味に輝く。
ジョーカーがダークヒーローへと変貌を遂げた瞬間である。
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