コメディとシリアスがこれ程に見事に
同居している作品を自分は他に知らない。
ディテールにこだわりをみせる
富裕層と貧困層の住居を舞台に、
韓国の社会的背景をバックグラウンドに
置きながらも分かりやすく、
しかし独創的な視点で
明るみになっていく格差をテーマに
描かれた作品。
前半はコメディタッチでとても笑える。
ペースも非常に良く、
パラサイトされていく側も
まるでコントを見ているように
騙されていく。
まず、面白いのは半地下に住む家族が失業中、つまり収入がないにも関わらず、みんな底抜けな明るさを持ち合わしている。これは万引き家族にも感じるものだが、お金がなくても、社会から外れた行動をしようとも、当の本人達は割と楽しくやっているという設定。ここで監督が単にお金がないことで格差を描こうとしてるわけではないことに気づかされる。
またパラサイトされる側の家族も嫌な人たちではない。下克上物の雰囲気は全くなく、むしろ心が豊かで親しみを持てるような印象。
どちらの家族も嫌いじゃない。
ではどうなっていくのだろうと引き込まれていく。
さて、あっという間に家族はパラサイトされる。
でも両家族もみんなハッピー。
お金だけが上から下へと流れていくのだが、
その分パラサイトされた側も恩恵を受けているので、持ちつ持たれつな関係性の為、
罪悪感を感じる隙を与えない。
とりあえず可哀想なのは
運転手と家政婦だけ。
家政婦だけ。
家政婦だけ。。。
仕掛けてきた。
キャンプに出かけ、家が間抜けの殻となった嵐の夜、一本のチャイムから物語の流れは変わる。ホラーだ。得体の知れない展開に背筋が凍る。
さらに運転手が仕掛けてきたらもっと面白かったとは思うが、話が発散するから留まったのだろう。
まず、この映画の一発目の肝はここだと感じた。冒頭に述べたシリアスとコメディがこれでもかというほど恐ろしく同居する瞬間である。
え、ここ笑ったら不謹慎じゃない？
でもなんか笑える。でもやっぱり辛い。
揺さぶられる感情の中、半地下vs地下のコントのような形勢逆転ストーリーは見応えバッチリ。
この時点で邦題の『半地下の家族』というメッセージから、半地下と地上だけではなく、更に地下があった構図を示される。つまりこの物語の格差の断面図は三層構造になっており、半地下が間に挟まれていると。アドレナリンが止まらない。
しかし、忘れてはいけない。
監督はポンジュノ。
ずっとコメディでいることは当然許されなかった。
なにも知らず帰ってきた夫婦がソファでいたしてる（ここの描写がとても生々しいがあり得て怖い）中、パク社長がついに物語の核心となる『匂い』の話をしてしまう。
その時のソンガンホの顔ですよ！
さっきまで気のいいお父さんだった姿からの豹変する姿。これはたまらん。
この辺はとてもジョーカーに似てる。
自分達は便所コウロギなのだ。
所詮はパラサイトして生きるしかない生き物。
ここで格差をパラサイトする側に自覚させるというギミックがすごい。
パラサイトしたくてこの家に潜入し、上手く潜り込み、なんだか皆と仲良くやれてたのに、匂いという格差が生む避けられぬ生理感覚で富裕層に無意識に境界線をひかれてしまう。
例えば、道端のホームレスや、海外の市場に入った時に感じるあの何だかわからない鼻につく匂い。この人たちは別に自分達になんら危害を加えるわけでもないのに、明らかにこちら側ではないという線引きをするあの瞬間。
これは本当にすごい！劇場にいながら匂いをまざまざと感じさせられたのは初めてかもしれない！
そして、追い討ちをかけるように豪雨による水没が家族に容赦なく襲いかかる。先述した格差の立面図が、分かりやすくビジュアライズされた形で観る者に提示される。半地下の家族が自分達の家に逃げるように駆け下りていく姿は、まるで豪雨で流れる水の勾配のごとく富裕層から貧困層への転落の様が映し出される。
水没していく様は目を背けたくなるが、この映画のキモともいえる見応えのある映像の数々。その中でも特筆すべきは、妹が逆流してくるトイレの便座の蓋の上で悟ったような表情でタバコを吹かすシーンがあるのだが、そのシーンがめちゃめちゃ刺さる。この映像体験は是非劇場で味わうべきだ。
そして、嵐が去った朝、我々、観客の心はもう前半のコメディなぞなかったように、今から何が恐ろしいことが起こるに違いないという緊迫したものに変わる。
雨上がりの翌日、富裕層vs半地下vs地下の構図が顕在化した中、低地に住む豪雨により家を失ったものの避難所と、高台に住む庭先でのパーティーのクロスカッティングで格差を浮き彫りにする。ポンジュノ監督は言葉ではなく、ディテールで語りかける描写が非常に優れていると感じる
数ヶ月待ち望んだ映画だったので、ここまであらすじを辿るレビューになってしまったが、そうなるも必然、この映画に無駄なシーンは一つもないと断言できる。
そしてその全てが整然とエンディングに向かって帰着する。
父を救うにはあの家に住むしかないという寓話で終わりそうになるのだが、今も息子は半地下に住み、父に想いを寄せている。
貧しさから家族を救おうと計画的に動いた息子と、無計画に動く事の重要さを説いた父の対比が招いた結末。これは圧巻。誰もが予想できなかっただろう。
人に勧めたいが、
決してネタバレは許されない。
とにかく観ろというしかない
エンターテインメント性が高い映画だった。
