モクゾー

ジョーカーのモクゾーのネタバレレビュー・内容・結末

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

狂気と笑いは紙一重…か

この映画、ご存知の通りハングオーバー!の監督であるトッドフィリップスの映画である。一方はお馬鹿コメディとして評価され、こちらは狂気のクライム映画として評価されている…うーむ、なるほど。人を笑わせようとする行為自体が、狂気と紙一重にあるのか。

とにかくホアキンの演技だけでも、観るべき価値がある。発作的笑いの辛さ…見ていて胸がギュッとなるくらい、辛い。

この演技力、好きものならばたまらない「容疑者ホアキンフェニックス」からも存分に垣間見える。役者もまた狂気と紙一重のところにいる危うい人種なのだろう。その魅力に打たれてしまう。


映画としては悪のカリスマの誕生譚である。そこを見当違いに突く批評が多いのなんの。…悪の賛歌だ、教育の敵だ、という人間はこの映画をちゃんと見ているのか?一般人には到底わからない世界なのだと、優しくもジョーカー本人が最後に言ってくれているではないか。

この映画、みんな頑張れば悪のカリスマになれるかもネ!なんて甘えたものではなく、薬を飲んで、カウンセリングを受けて、貧困に耐えて、人生の多くを犠牲にしてまで、この社会に適合しようと努力していた人間が、それに裏切られるという悲劇である。
ポイントは、主人公にとって悪になることが目的なのではなく、善き人であろうと最善を尽くした挙句に、ことごとく裏切られ倒してしまったということ。逃げ場がなくなった人間が、一矢報いてやろうと彼の野生の狂気をもって立ち上がることである。
この映画を見て、カッコいい!と悪に傾倒する人間がいたとしても、それはこの映画の意図からも外れた見当違いな感覚だ。この映画のせいにしてはいけない。まずは人生を真面目に頑張れ!ジョーカーみたいに。


演出もシャープでよい。基本は明らかにキングオブコメディだと思う。しかし、印象的な演出としての階段。これはゾクゾクしますねェ。
階段は登るときは辛いのに、降るときはこんなにも軽やかで楽なのだ。彼が苦労して積み上げた何かが音を立てて軽やかに崩れる様が、映像としてきちんと魅せられる。これが映画の醍醐味ですよ!


書けば永遠に書けそうなので、落ち着いて一点、個人的な希望を…
彼が彼女との関係を妄想だと気がつくシーン。これをちゃんとカットバックして答え合わせしてくれているが、
うーん、いらないんじゃないかな?
この作品の魅力は、現実と妄想のラインが主人公と同じように曖昧になる混沌だと思う。答え合わせはせず、ことごとく何が真実だったのかわからない演出でも、私は好きですが。。


最後に流れるシナトラのthats life…好きな人はこの歌詞も見た方がいいですね。

笑いが、笑えないものになった瞬間、そこに狂気が垣間見える…
これを名優が狂気を宿して見せてくれているのだ。もちろん、見ないわけにはいかないでしょう!

何回見たことでしょう。高得点!