小松屋たから

長いお別れの小松屋たからのレビュー・感想・評価

長いお別れ(2019年製作の映画)
3.7
この家族はみんな優しい。でも、普通であるようでいて普通ではないと思った。

娘は二人とも、「お父さんが期待していたような人間になれなかった」という負い目をずっと感じていて、「両親に比べて自分が如何にダメか」ということが常に自己評価の基準になっている。

厳格であったであろうことを想起させられる父の部屋の様子、母親のあまりの「女神」っぷりを見せられれば見せられるほど、両親の意図せぬ「圧力」が、娘二人が今の年齢になっても自分にあった生き方を見つけられない原因なのではないかと少し気の毒になった。

せめて、娘のうちどちらかはもっと自己を確立した生活を送っているという設定にした方が、結果、より父のこれまでの生き方を肯定することになったのではないだろうか。

近い身内が認知症だという個人的な事情があるからかもしれないが、自分にはメリーゴーランドが象徴するように、幸せだった時の思い出だけがいつまでもぐるぐる回ってくるのを見ながら、みんなで切実な問題から目を逸らそうとしているかのように思えてならなかった。

でもこれは自分の見方が捻くれているだけで、これらの人物造形が多くの涙を誘うのであれば、きっと作品の方が正しい。監督の前作「湯を沸かすほどの熱い愛」における登場人物の一人一人が、必要以上に情感に溢れていて、お腹いっぱいに思え、世評に比して自分はちょっと苦手だったことを思い出した。

「家に、あの頃に、帰りたい」という思いにはもちろん泣けた。「震災のあと、みんな絆を求めるようになって、現時点、これからの幸せより過去、家族を大事にするようになった」という次女の訴えには響くものがあった。そういえば、新宿駅前のチアガールは実在していたが、今も続けているのだろうか。じゃがいものことも含め、市井の人物たちを優しく拾い上げていく姿勢、演出はこの監督ならではで、決して嫌な気持ちになはならない。

ただ、これは無粋な意見かもしれないが、アメリカで撮影していないことは誰の眼にも明らかになってしまう感じなので、そこは演出やロケーション、お芝居でなんとかカバーして欲しかった。

山崎努さんと蒼井優さんは、さすがに素晴らしいです。