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メランコリックのytのレビュー・感想・評価

メランコリック(2018年製作の映画)
3.7
東大出身の主人公が新しく勤めた銭湯は、閉店後に殺人現場として利用されていたという設定の、サスペンス・コメディ。監督は田中征爾。終始漂う低予算感は否めないが、先の読めない展開にキャストの演技と陰陽を行き交う雰囲気が絶妙で面白い一作。人生において幸せとは一体何なのだろうか……。

[レビュー]
・勤めた銭湯が殺人現場だったという何とも残酷なストーリーだが、家族との食事や彼女とのデートシーンが見事に暖かく、殺人という冷酷さと見事に対比していたため非常に引き込まれやすかった。途中にあるアクションシーンも、上手く中だるみしないタイミングで入っていて良い。

・殺人現場を目の当たりにした主人公は、作品中の所謂”仕事”に加担していく訳だが、その過程が主人公にとってプラス要素になっているのが興味深い。東大に行って良い会社に入ることが幸せ、とは感じていない主人公は、”仕事”に加担して得たお金を見て笑顔を見せる。その笑顔はどのような意味を持っていたのかは定かではないが、東大まで行くというある種のレールを歩み続けた主人公にとって、この”仕事”で得たお金は特別な幸せだったのだろう。

しかし、同時期に入った松本が”仕事”のリーダーとして任命された時の主人公の心情は悲しいものがある。松本は松本の仕事を全うしただけだけの適材適所だった訳だが、掴み取った幸せが崩れかける瞬間は見ていて気持ちいいものでは無いよね。

・キャスト全員がこの映画で初めて知る人達だったので、ある意味序盤の主人公が”仕事”を目撃するシーンはもはやホラーじみていたし、向こうの社会の人間である田中と東の会話シーンは見入る程の緊張感と謎のリアルさがあった。画面越しに震えるほど。

・終盤、まさかの重要な役回りが主人公たちに回り、ある計画を実行することとなる。結果的にこの結末を選ぶと、後々面倒なことになるだろうなとは思ったが、そこは目を瞑ろう。結末としてはある意味幸せになれる結末。果たしてどのように幸せになるのだろうか……?

・キャストの演技が光っていたのも注目ポイント。特に、松本役の磯崎義知さん、百合役の吉田芽吹さんの演技が良かった。松本の終始漂うヤバい奴感と時折見せる狂気じみた笑顔はこの人にしか出せないだろうな。終盤のうどんのくだり、涙出そうになったよ。百合の素朴だけどどこか儚い演技は胸が苦しくなるものがあった。自然な彼女って感じがしてマジで良かった。

👉漂う低予算感を脚本とキャストの演技でねじ伏せた絶妙な作品。幸せについて考えさせられる、ちょっと暖かい殺人ストーリーは、今を生きる私たちの幸せを追う瞬間を大事にしようと思わせてくれる、そんな作品であった。
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