ベイビー

LORO 欲望のイタリアのベイビーのレビュー・感想・評価

LORO 欲望のイタリア(2018年製作の映画)
4.2
いやいやいやいやいや、これまたマズいですよ。
自分が面白い! と感じた作品が、こうも総合評価が低いなんて…

現時点で3.3。めちゃくちゃ低いわけでもないんですが、賛否両論が激しくて、否の方の「つまんなかった」「観るんじゃなかった」という意見が圧倒的に多いんです。

もちろんそういう意見を否定するつもりはさらさらないのですが、こうも自分の意見と差があると、いささか自分の感覚が麻痺しているかと不安になってしまいます…

さて、気分を取り戻して僕なりの感想。

重ね重ねになりますが、やっぱりこの作品は面白いんです。

この作品は悪名高きイタリアの元首相シルヴィオ・ベルルスコーニにを描いた物語。長期政権を固持した彼の数々の逸話と言えば…

イタリアの元首相であり、不動産王、メディア王、ACミランの会長兼オーナーとして活躍する傍ら、失言を繰り返すことはお構いなしで、無類の女好きは超有名。挙げ句の果てに、マフィアとの癒着や横領、脱税などなど、あらゆる黒い噂が囁かれた、マンガに出てきそうな飛んでもない怪物政治家。

そんなとんでもない政治家が、一度政権を奪われ、もう一度首相に返り咲こうとするお話です。

その話の切り取り方が絶妙で、普通先に示したような彼のとんでもエピソードを映像化するだけでも、映画として十分面白くなると思うんです。

しかし今作はそのようなWikipediaでも調べられるエピソードにはあまり触れず、代わりにセルジョ・モッラという青年実業家の強かな欲望を描くことで、ベルルスコーニというとてつもない巨像を色濃く描き出しています。

この男… 怪物か、カリスマか。

このコピーにあるとおり、今作品にはベルルスコーニという男の存在感がまざまざと描かれており、彼が放つ言葉は、虚構であれ、虚偽であれ、全てが圧倒的な説得力となって、人びとの心を惹きつけます。

その怪物ベルルスコーニを見事に怪演したトニ・セルヴィッロ。本年度のベイビーアワード最優秀主演男優賞は間違いなくセルヴィッロ氏に差し上げます。それほどに彼の演技が素晴らしい。ずっと見ていたいくらい、彼の演技に魅了されてしまいました。

そして、パオロ・ソレンティーノ監督の演出の良さ。映像の作り込みが美しく、物語の構成がある意味無駄がありません。それに音楽も素晴らしい。美しい映像とセンスある音楽の相性はバッチリでした。

しっかりセルジョ・モッラのパートとベルルスコーニのパートで映像と音楽の質感を変え、欲望の強いのセルジョ・モッラパートはより卑猥な映像とテクノ音楽。ベルルスコーニパート音楽は逆にギターの弾き語りを用いて繊細に。そのように音楽を使い分け、元首相であるベルルスコーニの人間性を多角的に表しているように思えました。

まるでオシャレな人がしっかりポイントを押さえて身なりをカッコ良く決めているかのように、パオロ・ソレンティーノ監督の演出はさりげなく、とてもオシャレなんです。

センスある音楽や美しくてシュールな映像の裏に隠れた様々なメタファー。たとえ全ての演出の意味が理解できなくても、ベルルスコーニという男の人間像が画面から伝わってきます。

その最たるものが"愛"なんです。
僕はこの作品に愛しさを感じてしまいました。

欲望を掻き立てる、女、おんな、オンナ。そして、MDMAやコカインを所々挟んで、また、女、おんな、オンナ…

そんな欲望を剥き出しにした描写とベルルスコーニというあらゆる欲望を手に入れた男を映し出しているだけなのに、なぜだかこのどうしようもないおじさんを、僕は愛しく感じてしまうんです。
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