エソラゴト

ちいさな独裁者のエソラゴトのレビュー・感想・評価

ちいさな独裁者(2017年製作の映画)
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原題は『Der Hauptmann(英題:The Captain)』、主人公ヴィリー・ヘロルトが偶然手に入れた軍服を着用する事で成りすました軍隊の階級「大尉」の意味だそう。

個人的には気に入っている邦題に付いている"ちいさな"という文言も小規模という意味合いと明らかにサイズが一回りも二回りも違う軍服を着込んだヘロルト本人の小柄な体型、そして当時まだ19歳の若さというところから付けれているのが分かります。

戦時中という生きるか死ぬかの瀬戸際という特殊な極限状態とはいえ、普通の一兵卒の若者が「権力」という名の鎧=軍服を身に纏うことで人格から何からこんなにも変貌し、ここまで傲慢に残酷に人を支配し服従させる事が出来るものなのか…。

ヘロルトの心中が全く描かれない上に無表情で心理的動揺すらも見えてこない為に観ている我々にその答えを委ねる形が取られています。それもその筈で、ロベルト・シュヴェンケ監督は我々観客に自分がヘロルトだったら…という自問を促す為に敢えてヘロルトの内心や背景を描かなかったとインタビューで答えています。

そして最も驚くべき事はこの物語がフィクションではなく実話だということ。エンドロールの映像も強烈な皮肉が効いています。その為か非常に息苦しさや胸糞悪さが余韻として深く残るので、鑑賞後はモヤモヤした暗い気分で帰途に着くことになりました…。

ハリウッドでいくつか娯楽作品を撮り上げ祖国ドイツに戻って今作を完成させたロベルト・シュヴェンケ監督。同じような道程を経て祖国オランダに戻り同じくナチスを描いた大傑作『ブラック・ブック』を世に放ったポール・ヴァーホーヴェン監督を彷彿とさせました。