小松屋たから

ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密の小松屋たからのレビュー・感想・評価

3.6
お屋敷、遺産相続、癖のある家族たち。まさに、クリスティ風のミステリー。

監督のオリジナル作品ということもあるからか、特にダニエル・クレイグ演じる探偵・ブランのキャラクターがまだまだ、発展途上、という印象だった。

優秀なのかそうでないのかよくわからないが実は鋭い、という線を狙っているのかもしれないが、真相を見破っていると宣言した時の素振りや、容疑者の追い詰め方が、類型的というか、あまり特徴が無いというか、ちょっと物足りなかった。

ジェームズ・ボンドを降板するダニエル・クレイグの新たな定番シリーズにするためには、もっと癖や外連味をつけなければいけないだろう。ポアロやホームズといった偉大なる先達がいる中で、もし、回を重ねるのであれば、まだまだ試行錯誤が必要なのではないかと思った。ただ、逆に言えば、これから、どんどん魅力的な探偵になる可能性はあるわけだが。

謎解きに関しても、驚き、というほどのことでもなく、上品とは言えないある表現で絶対に嘘をつけない人間を配置するという「発明」を除けば、特に気の利いたセリフ、展開、仕掛けがあるわけでもないので、これがオスカーの「脚本賞候補」ということには少し驚いたけれど、「移民問題」「格差」などの現代性を古典的なミステリーに巧みに取り入れた点が評価されたのだろうか。

ブラックさを適度にまぶした空気感は面白い。錚々たる役者陣にはもちろん魅力があり、特にラストシーンのアナ・デ・アルマス演じるマルタの、本心、事件の真相にふと疑問を抱かせるような表情、仕草は素敵だった。