カツマ

ウエスト・サイド・ストーリーのカツマのレビュー・感想・評価

4.0
蘇る時が来た。名作の威光はそのままに、今の時代にこそ必要なメッセージがこのミュージカルには込められている。分断の歴史は半世紀を経ても終わらず、差別のもとは根絶されることなく現代まで漂着してしまった。永遠の命題はすぐ目の前にあるというのに、歌い踊る声は重く、悲劇の火種は焼き尽くされぬまま、その表層のみを撫で続けるのであった。

1957年に発表されたブロードウェイ・ミュージカル『ウェストサイドストーリー』が半世紀の時を経て二度目の映画化!巨匠スティーヴン・スピルバーグがメガホンを取り、アカデミー賞でアリアナ・デボーズが最優秀助演女優賞を獲得するなど、2021年度の重要な賞レースを賑わせた作品となった。物語はオリジナルのブロードウェイ・ミュージカルの方に寄せており、昨年他界したスティーヴン・ソンドハイムからも激唱を得ていたようである。今もまだ根強く残る人種差別問題を真っ向から描き、オリジナルの素晴らしさを再確認させた、という意味でも大きな意義のある作品だろう。

〜あらすじ〜

場所はニューヨークのウェストサイド。ポーランド系アメリカ人の不良グループ、ジェッツはその日も街を闊歩しては、プエルトリコ系アメリカ人のグループ、シャークスと激突。殴る蹴るの喧嘩になり、そこに警察が介入、何とかその場は収められた。
シャークスとの決闘を望むジェッツのリーダー、リフは兄貴分のトニーを誘うも、彼は悪行から足を洗った身。トニーはもう抗争に加わるつもりはなかった。それでもリフはトニーをシャークスも参加するダンスパーティーに来るように諭し、悪態をつきながらも去っていった。
一方、シャークスのリーダー、ベルナルドもまたシャークスを叩き潰さんと闘志を燃やしていた。だが、ベルナルドの妹マリアはそんな兄の鼻息の荒さに辟易しており、ダンスパーティーにもチノという友人を連れていくことを強引に決めてしまう。そしてやってきたダンスパーティー。そこでトニーとマリアの二人は運命的な出会いをする。それが抗争を更に激化させることになるとは知らずに・・。

〜見どころと感想〜

往年の名作ミュージカルのリメイクということで、歌とダンスで魅せる、という点に特化しており、派手なギミックの少ないミュージカル映画となっている。そこにあるメッセージとは、1957年から変わらない人種間の分断と貧困が生む暴力と死。つまりは今作はアメリカという国の闇を克明に描いており、50年以上の時を経ても、そのメッセージが大きな問題提起を残してしまうのは悲しい事実だ。劇中歌も原作と同じ楽曲を使用。原作の世界観をそのまま現代に蘇らせたい、というスピルバーグの意図を大いに感じることができた。

主演のアンセル・エルゴートに関しては、ビジュアルに関しては悪くないキャスティングであると思う。が、本人の素行の問題がチラついてしまうため、純愛に生きる役柄にはどうしても違和感を覚えてしまった。マリア役のレイチェル・ゼグラーはオーディションで選抜された新鋭で、YouTuberとしても活動。スピルバーグに見出された彼女が今後、どんな作品に出演していくのか楽しみである。そして、特筆すべきはアカデミー賞で助演女優賞を獲得したアリアナ・デボーズだろう。とにかく歌もダンスも演技もキレキレ。彼女はネトフリ映画『ザ・プロム』にも出演していたりとミュージカルとの相性が抜群。今後も多くの作品で彼女の輝く瞬間を見ることができそうだ。

ブロードウェイ版を意識したかのような静寂と、セットの中で踊らせる、というレトロな手法がやはりこの作品には合っていると思う。それぞれのミュージカルシーンにはキメどころがあって(そのキメどころを特にキッチリ決めてくるのがアリアナ・デボーズだったりする)、メリハリの効いた音楽とダンスのシンクロが楽しめる作品である。名作の輝きを鈍らせることなく、ただのリメイクでは終わらない完成度を達成し、スピルバーグはまたそのキャリアに一つの大きな金字塔を打ち立てた。語り継がれるべきメッセージはそのままに、その次代へと繋ぐバトンはここに確かに渡されたのであった。

〜あとがき〜

アカデミー賞も賑わせたスピルバーグ版ウェストサイドストーリーが早くもディズニープラスに来ていたので早速の鑑賞です。オリジナルを忠実に再現しつつも、名作を21世紀の映画史に刻み付けんとする気骨溢れる作品に感じました。

パーティーでのダンスシーン、中盤のアリアナ・デボーズの独壇場など、とにかく見どころが多く、150分という長さを全く感じさせない作り。メッセージを詰め込みつつ、ラストはサラッとしているあたりも今の時代には逆に新鮮に感じましたね。
カツマ

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