磔刑

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンの磔刑のレビュー・感想・評価

4.0
オススメ度☆☆☆
流石に長いです。
連続殺人事件がメインの割にハラハラするような展開は無く、ミステリー要素も少ない。丁寧過ぎるドラマ運びはテレビドラマのように感じることが多々あるが、主演の演技力とスコセッシの演出力で一つの上質な映画にまとめてあげている。だが人間ドラマが濃密でもなく、あくまで事件をできるだけ詳細に描いたスコセッシ・クオリティの再現映画のような趣き。
スコセッシファンか、長い間映画館に滞在したい人向け。
「ヒーロー映画は映画じゃなくてテーマパーク」と言ったスコセッシによる「これが映画やで小僧共😤」(と、言ったかは知らんが)その巨匠の気概に触れることがてきるクオリティは確かに存在した。
<以下ネタバレあり>






流石に長かった。
3回ぐらい家で映画観てるように錯覚した。
でも長尺の割に退屈する瞬間は無かった。それはスコセッシの演出力の賜物なのは間違いない。

話の長さ的にも映画というよりはドラマに近い感覚。
実際間伸びしてるのはあるが、要所要所の力の入った演出によるメリハリが退屈させない。主演3人が作品の華やかさと説得力を与えており、音楽にも力強さを感じた。
上記の要素を上手く指揮できるのはスコセッシレベルの監督でないと難しい。半分ドラマのような長ったらしさを感じるが、それを映画としてまとめ上げていることから腕の衰えを感じさせない。

最初は原作遵守でFBI視点で話が進むはずだったが、本編のような変更がなされている。
これが映画的に上手くいっているのかは実際のところ謎である。
なぜなら変更した主人公が何を考えてるのかが分かりにくく、共感しづらいからだ。
妻を思う気持ちは本当なのだろうが、犯行に手を染めることに躊躇が無く、彼の葛藤を感じる場面がほぼ無いので感情を読み取ることが難しい。同監督主演の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の主人公のように罪の意識を跳ね除ける信念や、強欲であってもそれに実直にであるなら人として理解できる部分はある。
しかし今作は善と悪との板挟みにあるはずが、それぞれの行動がスパッと二分されてある。白と黒が混ざる曖昧な部分こそが人間性であり、その本来映画が描くべき深みをこの人物からは感じなかった。

作品内ではかなりマイルドに描かれてたが、主人公は相当頭が悪かったんじゃないかなと思う。それこそ『ファーゴ』の犯人のような。つまり人間的に深い部分は無いし、だから葛藤もしない。極悪人の叔父に手足のように使われてた小悪党なだけだったのではないかと思う。それぐらい彼の行動は周りに流されてやすく、信念や意志を感じなかった。
本編ではそんな印象を限りなく受けない。それはディカプリオの演技があってこそなのだが、だからこそ人物の底の浅さとドラマの深い部分に乖離を感じざるを得なかった。
個人的にはFBI視点の方が無難で良かったんじゃないかなぁと思った。多分『ミシシッピー・バーニング』みたいな感じになったんじゃないかな?

主人公の妻は更に何を考えてるのかが読めないが、それは先住民の気質をそのままあらわしてるので仕方ない。
容易に搾取される先住民は半ば知恵遅れのように見える。しかしそれは逆に白人がどれほど狡賢く、残忍で、その行動に躊躇がない程に倫理観が腐っているかを明確に描いているからだ。先住民が純粋無垢だとは思わないし、彼らにも愚かな部分があるのは確かだが、それを圧倒的に凌駕する程に白人が欲深く邪悪である歴史が物語る事実の一端を描き出している。

演出や演技は良くてもストーリーに起伏が乏しいし、アクションとは無縁。重複する場面、目まぐるしく次から次へと出てくる人物の似たような会話。最後は名前だけで解説されるので没入感のあるドラマというよりは歴史解説のような趣きだ。なので中盤くらいからスコア☆3.5前後を行ったり来たりしてたのだが、スコセッシ本人が登場してスコア爆上げしてしまいました…。いや、別にスコセッシの大ファンとかじゃないけど、なんか映画ファン心理に勝手に突き刺さってしまった😅

アメコミ映画アンチ(それは言い過ぎ)のスコセッシが描く「映画ってこういうもんだよ」を劇場で体験できただけ良しとします。アメコミ映画では決して摂取できない栄養素が確かにあり、このような作品を映画ファンとしても大事にすべきだなと、スコセッシとアイコンタクトし、分かりあったような気持ちに勝手になりました。


あと客層が老人ホームのようでした。
磔刑

磔刑