ストップモーションアニメーションの最高峰、スタジオライカの最新作。
ライカ作品のクオリティは毎回素晴らしいのだけど、今作も古き良きストップモーションならではの映像表現と緻密なCG技術の融合によって比類なき映像が93分妥協なく繰り広げられており、まさに眼福。
監督は同スタジオの大傑作『パラノーマン ブライス・ホローの謎』(2012)のクリス・バトラー。
ジュブナイルホラーだったあの映画と本作はかなり趣が異なり、本作は所謂アクション・アドベンチャーモノになっている。
これまでのライカ映画というのは風変わりでどこか孤独の影を纏った少年少女が主人公であることが多かったわけだけど、本作は独尊的で癖のある中年男性と奇怪なUMAのバディが主人公である。
子ども向けであること(あるいは全年齢向けであること)が是とされやすいアニメーション作品においてこの設定はかなり“攻めている”ため、一見してのキャッチーさが足りないところが本作がコケた理由のひとつであるのは間違いないだろう。
ただし大人向けのアニメーション映画というジャンルにおいて本作は素晴らしく、欠点だらけのキャラクターたちが織りなす群像劇にはフィクションでありながらも真に迫ったリアリティが宿っており、特にライオネル(ヒュー・ジャックマン)の人間臭い生き様にはヒリヒリとした共感性が付き纏っている。
大人になるとドラスティックな進化や自己革命はなかなか身に起こらないわけであり、それじゃあ人はどう変わっていくのか。本作はそんな市井に生きる全ての人間に向けて静かに、でも確実に胸に刺さるメッセージを訴えかけてくれるのである。
ストーリーテリングの強引さと予定調和感が少し気になるものの鑑賞後の余韻は爽快の一言で、細かいことはどうでも良くなるほどに画面いっぱいに楽しさが溢れかえっている。
『KUBO/クボ 二本の弦の秘密 』という傑作を経て制作された本作はさらにその技術的な進歩が施されており、独自の手法ならではの創意工夫と大胆なシーンカットによってもはやこの分野領域において他の追随を許さないレベルに到達している。
ライカにしては分かりやすく壮大なアクションシーンが満載なのだけど、それはつまりそれだけの綿密な設計と構築が必要となっているわけであり、その途方もない作業に思いを馳せるだけで自ずと感動してしまうのである。
全カットが驚きに溢れていて、ずっと目を凝らしてしまう幸福な映画体験である。特に中盤の船内シーンの映像表現は圧巻で、これがストップモーションで作られたとはにわかには信じ難いほどのものだ。
本国では大コケし、日本でもほとんど注目を浴びなかった悲運の映画だけど、この結果でスタジオライカのプロップスが落ちるようなことにならないことを祈るばかりだ。