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彼らは生きていた/ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールドのギルドのレビュー・感想・評価

4.9
【戦争を通じて「人生で最高の時を過ごした人」に捧ぐ生きた映画】
私は戦争を経験したことがない。戦争の中でも強く生き抜く姿・戦争が齎す悲劇を映画というプラットフォームで見た。
「この世界の片隅に」で戦争中でも力強く生きる一般人を見たけれども、それは戦う兵士だって同じである。
けれども兵士も軍服を脱げばどこにでもいる若者で、愛国心と世論の興奮に駆り立てられた一人でもある。

戦争は見方によっては悲しい事実かもしれない。でも地獄のような世界であってもユーモアも甘酸っぱい思い出もハートフルな出来事はある。
それは片隅に見える笑顔と現代の映像技術で確かに存在する。

〜あらすじ〜
第一次世界大戦の西部戦線で撮影されたイギリス軍とドイツ軍との激突をカラーリング化したドキュメンタリー映画。

イギリス帝国戦争博物館に貯蔵された2200時間以上分のモノクロ映像を抽出。そこからカラーリング、バラバラなフレーム数を24に統一、必要に応じた人工的なフレーム作り、自然音・効果音の繊細な音を一つのショットに全て重ね込み、読唇術を用いて訛り込みで会話を再現…と徹底的な拘り・最先端のデジタル技術・アカデミー賞受賞の実力で現代に蘇らせたフィルムアーカイブの到達点。

〜みどころ〜
「1917 命をかけた伝令」と同じ題材を用いて、ここまで表現の仕方・表現方法が見どころの異なる二作が同時期に登場するのは面白いですよね。個人的には技術的な挑戦と映画のメッセージと強固に密接した本作の方が好きです。
それどころか今年上映された作品の中でいきなり今年ベスト級の映画が登場して驚愕しています。

実際に見ると映像技術によって生身の感覚が伝わると共に当時の迫力も味わえる大砲・地雷も楽しめる要素だと思います。特に唸らされたのは肌の質感のきめ細やかさで、乗馬のシーン・兵士の顔や皮膚が鮮明に見えたのは驚きました!
総じてフィクションでセットを組んで撮影しているような感覚に陥って、でもノンフィクションとサウンドエフェクトの融合で臨場感を与えるフィルムアーカイブに感じました。

ただ本作がよく出来ていると感じるところは、そんな映画の技術的挑戦とメッセージが密接に関わって説得力を上げているところです。

映像技術と合わせて300人近い退役軍人のインタビュー600時間分から選ばれた"生の声”が主役にもなっています。
そのどれもが戦争を経験したことがなくても刺さる言葉ばかりでした。

そこには喜怒哀楽が存在していて、戦争は確かに恐ろしく生と死と隣り合わせの世界だけど男としての成長の冒険が存在し、不満だった社会にはない希望の世界への逃避が存在している。
ユーモア溢れる映像や青年から一皮剥けた大人になる甘酸っぱさもあって、それらを引っくるめて命がけの戦場であっても救いの場であることに心打たれました。

特に印象的なのはイギリス軍がドイツ軍を捕らえた時に、敵であるイギリス軍をドイツ軍が救急兵として手伝ったり肩を組んで負傷兵を敵味方関係なく行うところかな。
そこには憎悪は存在しない。あるのは他方との命令であり戦意を奮い立たせた世論であり、敵味方関係なく憎むことなく、むしろ尊敬し合う姿に感動しました。
とある退役軍人が語る「彼らも軍服を脱げばただの理容師や販売員だ」が印象的でした。

それでも戦争の悲劇さは凄まじく、カラーリングだからこそ分かる残虐さも存在し合間に見せる笑顔がものすごく痛々しい。それは戦争も戦争の爪痕からも見えて、タクシー・ドライバーのトラヴィスも同じ境遇と思うといたたまれます。

でも退役軍人らのインタビューであの戦争が人生で最高の時と語る者もいるのは意外に感じました。
このギャップこそ本作の大きな魅力であり、命をかけて青春を謳歌した若者の一つの生き方でした。心の底から楽しみ、家族のように接して生まれた笑顔に涙が止まらなかったです…

かつて人生の最高の時を感じた人には間違いなく刺さる傑作です。

〜あとがき〜
コロナショックによる自粛ムードで映画館になかなか行けない中、自分自身の奥深くにある燃え上がるものを再燃する作品に出会えたのは素敵なことだと感じました。
この映画は1917とセットで見ると映画における「どのように映すか?」と「どうやって伝える表現に工夫を凝らすか?」を楽しめるので多くの人に見て欲しい作品です。

この作品を見ると、1917で登場したネズミのアクシデントの背景や戦争そのものの緊急性が更に分かって、あちらのアーティスティックな絵作り含めてシナジー効果をより感じると思います!
映画館に行けなくてもYouTube上でレンタル出来ますよ!
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