小松屋たから

クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅の小松屋たからのレビュー・感想・評価

3.7
カナダの監督が撮った複数国共同制作作品。ボリウッドテイストを加えたヨーロッパ映画? でもほぼ全員英語だし、とりあえず「多国籍映画」、という捉え方で良いのだろうか。

肝心の’旅’は正直「奇想天外」というほどでもない。原作は色々な職業を経て国境警察本部の警部補になった人が通勤中にスマホで書いたもの、ということなので、それが世界中で翻訳され映画化されているという現実の方が、むしろ「奇想天外」なのかもしれない。

おおまかに言えば、疑問と感動が順番に訪れる、そんな映画だった。突然歌い出す入国管理官のシーンは「モンティ・パイソン」風で滑稽で楽しいが、インド映画の特色を揶揄しているように見えなくもなく、これはどうなんだろうと思っていたら、そのあとのイタリアのダンスシーンが最高に良かったので、それは帳消し。

主役がある大金を「自分で稼いだ」と断言するのもどうかな、と感じたが、その遣い方で、それも帳消し。もちろん、難民問題があの方法で解決するとは思わないが、善意というものは確かに存在するのだということが世界中に広まるのであれば意味がある。

そして、ある移動手段とかいくつかの表現はさすがに安っぽくないか、と思っていたところ、ラストの主役の一言ですべて帳消し。人生にはイマジネーションが必要なのだ。

難民、貧困といった深刻な問題を正面から採り上げながら、幸福感に溢れていることが不思議でもあり素敵でもあった。犯罪も嘘もマジックのごとく鮮やかに披露されるが、「善行の積み重ねがドアを開ける=奇跡を起こす」というメッセージは一貫していて、強引に見える恋の顛末もその延長線上にあるので自分は納得。

ところで、本筋とは関係は無いが、原作小説は「IKEAのタンスに閉じ込められたサドゥーの奇想天外な旅」なのに、映画ではIKEAではなく別の会社になっていた理由は何だろう。制作側が特定のイメージがつくのを嫌がったのか、金額も含めた権利的な問題か。もし、IKEAが移民問題等から距離を置きたくて許諾しなかったのであればちょっと残念。そこは粋な計らいを見せて欲しかったかな。何かご存じの方がいればぜひ教えてください。

IKEA(らしき店舗)内での主役とヒロインの気が利いたやりとりを世界中でみんなが真似し始めると大変だからだったりして(笑)。