銀色のファクシミリ

天気の子の銀色のファクシミリのレビュー・感想・評価

天気の子(2019年製作の映画)
3.8
『 #天気の子』(2019/日)
劇場にて。新海誠監督作品、初鑑賞。面白かったです。好き嫌いで云えば、好き。同時に単純なエンタメ作品ではない、強い作家性を感じる映画でもありました。恐怖と暗さを排除しながら無思慮な楽観に落着せず、世界の美しさを描きながら、その世界と個人の関わりを問う。

主人公の家出少年・森嶋帆高の序盤の行動がとても印象的。傷だらけの顔のまま豪雨に身を晒したあの日の解放感。道路に散乱した空き缶を拾い集めるシーンが、居場所を探す漂白の身の悲しさを示し、同時に後に彼を苦しめる16歳の少年の持つ無意識の善性も明らかにする。丹念な演出の積み重ね。

ようやく身の置きどころを見つけ、善意と衝動的だが重大なブレイクスルーの果てに「100%の晴れ女」と出会う。天野陽菜との出会いは、帆高に彩りある日々を与えてくれたが、同時に「大人になるか、男になるか」を突きつける。云いかえれば「少年、お前の背負える、背負いたい責任はどこまでだ?」。

ハッピーエンドかバッドエンドか。確かに意見が分かれるところだと思います。個人的には「主人公は背負える責任を見極められた」のでハッピーエンド派。境遇を呪わず、責任転嫁をせず、最後はアイテムではなく、今までの行いからブレイクスルーを果たせた。それゆえに良いエンドシーンだと思えました。

あと感じたのは、徹底的に「恐怖と暗さ」を描かない事。雨が降りやまない都市、将来を見通せない生活、天気の事しか語らないテレビとSNS、帆高たちが補導されそうになった場面で起きた大きな事件。描いていない部分にかなりの深刻さがある。

この映画、もっと暗い作品にいくらでも出来る。しかし深刻さを描かないのは楽観的な夢物語に邪魔だから、ではなく。美しい世界をこれでもかと突きつけて、選択を迫るため。「価値あるものを決めるのは誰だ?」と。束縛されるな、若き人々よ。という映画だとも思えました。感想オシマイ。
(2019年7月27日感想)