るるびっち

2分の1の魔法のるるびっちのレビュー・感想・評価

2分の1の魔法(2020年製作の映画)
3.8
ファンタジーにもハイとローがある。
まったく架空の法則や世界観で作られた異世界物のハイ・ファンタジーと、現実世界に根ざしながら主人公がちょっと不思議な力が使えるロー・ファンタジー。
ピクサーの場合は常にローというより、ファンタジーもどきだ。
ピクサーのやり方は、身近な人間ドラマを人間ではなくトイ・バグズ・モンスター・ロボット、今回はエルフに肩代りさせているだけでファンタジーというよりメタファー(隠喩)だ。
ピクサーの手法は秀逸で、身近な感情を元にしている。
例えば新米パパの子育ての戸惑いドラマを、人間でなくモンスターにさせることで、新鮮かつ共感を得る物語に変換する(モンスターズ・インク)。
これが普通に新米パパの話ならありがち。
しかしモンスターが子育てとなると、新種のファンタジーぽく見える。
しかも中身は身近な人間ドラマなので、観客にも理解しやすく共感を得やすい。一挙両得なのだ。

ファンタジーとしてその世界特有のルールを紹介するより、現実の隠喩として描いたほうが解りやすく風刺として受け入れやすい。
本作でも、野良犬の代わりに野良ユニコーンがゴミ箱を漁っている。
昔の栄光を看板に飲食店を切り盛りするコーリーは、ヒーローから商売人に堕落したロッキーみたいなものである。現実にも、そんなハリウッド・スターは沢山居る。
スキル(魔法)を磨くより、便利な機器に頼り自己の力を失うのは現代人の問題である。身近な例だと、スマホや携帯のせいで電話番号を暗記する力を現代人は失った。電卓のせいで暗算力をグーグルのせいで資料選別する力を、便利が進むほど昔の人に比べて能力が退化していくのだ。
矢印で教えてくれるのだから、地図が読めない男性も増加するだろう。『話を聞かない男、地図が読めない女』という書物は遺物になる。
男は、話も地図も解らなくなるのだ。
小学生の体力低下も文明病であろう。

現実のメタファーとしての風刺は解りやすく面白い。
しかし一方で、本格ファンタジーが観たかったという失望もある。
ピクサーの商売上手はちょっとズルい。

本作も兄弟の絆と、自信のない弟が兄を信頼することで魔法使いになっていく所は感動する。人間ドラマは文句のつけようがない。
しかしファンタジー部分は、下半身しか復活しなかった父親を元通りにするための物語の導入と惹きつけは『鋼の錬金術師』(これタブーかな?)みたいで面白いが、それ以降のファンタジー性が希薄で残念だ。
あと、お母さんが助けに来るのは向こうもマザコン多いなと感じた。

『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『ハウルの動く城』等のハイ・ファンタジーを生み出した宮崎駿を尊敬するジョン・ラセターの指導していた(過去形😂)ピクサーなのだから、そろそろ独自世界のハイ・ファンタジーを生み出して欲しい。それだけの力はあるハズだ、一番自信を持つべきなのは物語の主人公ではなく制作陣である。
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