銀色のファクシミリ

よこがおの銀色のファクシミリのネタバレレビュー・内容・結末

よこがお(2019年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

『#よこがお』(2019/日)
劇場にて。最初の感想は「これも人生だな」でした。ある女性の人生の一部分を切り取った、ヒューマンドラマの良作。交互に語られる過去編と現在編、どちらにも不穏な空気が漂い緊迫感がありました。タイトルどおりセリフ以上に「よこがお」で語る筒井真理子、さすがの実力。

ディテールが肝の作品なので、あらすじは書けません。善良な市井である主人公・市子の生活が描かれる過去編と、その生活が大きく変わっている現在編。

過失とは到底いえないような些細な出来事から、でも大きな秘密を抱えてしまった主人公。そこから薄氷を渡るような危うさが描かれ、現在編が進む中で、危うく進む過去編がろくでもない結末なのが予感されるのに途切れない緊迫感。そしてある場面で見せる、車中での横顔。『狼の死刑宣告』のケビン・ベーコンばりの、無言でも伝わる「なにかを確かに胸に秘めた」顔。ここ最高でした。現在編の危うさを加速させています。

加えて秀逸だったのが、現在編で市子が自制できずに涙を流してしまう場面。現在編の市子が、過去編の市子であることを示唆しているですが、心情吐露ゼロでも伝えてしまう演技力。
さらに演出で素晴らしかったのが、終わらせ方。ある場所から、主人公が立ち去る姿を見送る様に撮っているのですが、現在編を過去へ、過去編を「遠い過去」へ押し流しているように。また、ある人が横断歩道を画面左に渡ることで物語が転回するのですが、後にその人が横断歩道を画面右へ渡っていくことで、その人の中でも全てが過去だと示しているようでした。言葉少なく演技と演出で多くを語る傑作。感想オシマイ。

『#よこがお』ネタバレ感想。「主人公の無言の表情で心情を伝えて終わる映画は、いい映画が多い」説あると思います。この映画もタイトルどおり主人公の横顔で終わるのですが、やはりいい映画でした。最後は、
ろくでもないことばかりの出来事の全てを過去にして、あの場面を「乗り切った」人のよこがおだとおもうのですよね。現在編の主人公を支えていた自暴自棄の復讐心すら行き所をなくし、消化不良の怒りを抱えたまま横断歩道の場面になった。でも最後の最後で踏みとどまれたのは、過去編から続いて現在編でも変わらぬ主人公の善性ゆえなんだと思うのですが、良心と善性なんて上等なもの以上に「私はこれからも生きていかなきゃならない」という現実的な問題から生まれた、無理やりにでも封じ込めた形での過去の克服なんだと思います。キレイごとで終わらせないけど、だからこそ意義深いラストだと思います。ふせったーでも感想オシマイ。
(2019年9月11日感想)

#2019年下半期映画ベスト10
・『#よこがお』
「理不尽と不条理の中で生きる」という今年多く作られた映画の中でも群を抜く大傑作。主人公の置かれる立場の微妙さ具合と、現在を過去に押し流すような、視点がある地点に固定されたシーンが強烈。
(2019年12月31日感想)