ベイビー

ある船頭の話のベイビーのレビュー・感想・評価

ある船頭の話(2019年製作の映画)
4.0
オダギリジョーさん初の長編監督作品。
とても素晴らしい作品でした。

序盤は柄本明さん演じる船頭のトイチが岸から岸へと色んな客を乗せて往来するだけの展開。この落とし所も分からない展開にもかかわらず、オダギリジョー監督流の粘り強く丁寧な演出により、グイグイ作品に引き込まれてしまいました。

オダギリジョーさんは監督の他に脚本と編集もされていたのですが、脚本は朴訥として素朴ながらも、力強いメッセージを感じることができました。まるで宮沢賢治の作品のように、人間の本質と人間への願いをオダギリジョー流に丁寧に描かれていたように思います。

この世にある骸(むくろ)は魂を渡す舟だとするならば、たとえ輪廻転生で生まれ変わったとしても魂は元のまま変わらないもの。いくら時代が流れても、人の心のあり方だけは流されてはいけないのだと、静かに教えてくれたような作品でした。

この素朴な味わいながらも、作品に強く惹きつけられる要因として、一つに美しい映像が挙げられます。撮影監督はウォン・カーウァイ監督作品で知られるクリストファー・ドイル氏です。

ことウォン・カーウァイ監督の「恋する惑星」に至っては、クリストファー・ドイルのセンス溢れるハンディカムでのゲリラ撮影が、フェイ・ウォンが歌う「夢中人」という主題歌と相まって、人気作品になりました。

しかし今作に至っては、しっかりカメラを据え置き、監督とともに練り上げた構図のもと、粘り強く日本の美しさを映し出しています。

そして衣装デザインは日本を代表するワダエミさん。作品を観ている最中、ボロ着ながらも何か作品と調和されているなぁと思っていたら、エンドロールを見て納得しました。映像の美しさを損なわないボロ着はお見事でした。

そしてキャストが豪華でまた良かったです。柄本明さんの朴訥とした演技は最高でした。あの幾ら人から嫌味を言われても耐える仕草。心からこのような人間になりたいと感じてしまいました。

そしてなんと言っても村上虹郎さんと村上淳さんとの親子出演でニンマリ。残念ながら同じフレームに収まることはなかったのですが、ニアミスで共演されただけでも少し嬉しかったです。

他にも永瀬正敏さんや浅野忠信さんという、オダギリジョー監督と同世代の名優が出演されていて、役者さんたちの横のつながりを感じてしまいました。

今思えば、あれだけ丁寧に撮られていたのですから、ラストはもう少しジリジリと緊迫感があるような展開というか演出なら尚良かったと思うのですが… それはオダギリジョー監督のご意向とは違うのでしょうね。

何はともあれ、今後オダギリジョー監督には日本を代表する監督になっていただきたい。そんなことを思わせてくれる、素晴らしい作品でした。
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