レーシングはおろか車自体にすらほとんど興味がないのだけども、前評判の良さでずっと気になっていた本作。
長尺に少しばかり怯んで観る機会を逃していたけどようやく鑑賞。なんだこれめちゃくちゃ面白いじゃん!
2人の男の友情を描くヒューマンドラマであり、大企業vs下請けの社会ドラマであり、熱いレースバトルモノでもあるという非常に広範囲にリーチできる間口の広さながらも、どれもが一級に面白くなっているという素晴らしい映画だった。
ケン・マイルズを演じたクリスチャン・ベイルはこれまでに見た演技の中でベストワークだと思ったし、マット・デイモンも安定の手堅い好演を見せてくれる。
実話をもとにしているだけあり、二人の主人公にはフィクションドラマが陥りがちな無欠感がなく、それぞれが弱さや脆さを抱えながら目標に向かっていく。その姿勢が胸を打つのである。
フォード社がフェラーリに勝ち、アメリカ車の威厳を取り戻すべくキャロル・シェルビー(マット・デイモン)にマシン開発を依頼する、という筋からライクア池井戸潤で、さながらハリウッド版「下町ロケット」の風体である(観たことないけど)。
なのでタイトルに掲げるフォードとフェラーリの対決そのものよりも、 キャロル・シェルビーとケン・マイルズ が大企業フォードに依頼されて様々な政治的圧力を受けながらも己の矜持をかけて奮闘する、という大企業vs下請けの構造にこそ本質がある、と思う。
たぶん学生の頃に見ていたらハイライトのルマン耐久レースの白熱したカーチェイスに夢中になっていたと思うけど、一端の社会人ですり減っている今、胸を熱くさせるのは前半の、クライアントに翻弄されながらもマシン開発にひたむきに向き合い続ける一連のシークエンスだった。
いつ誰が観ても面白い映画であると同時に、観る人の立場によって目線が変わってくるというのもこの映画の懐の深さである。
映画館で観れなかったことを少し後悔したけれど、観て良かった、となによりも思わせてくれる傑作でした。