晴れない空の降らない雨

フォードvsフェラーリの晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

フォードvsフェラーリ(2019年製作の映画)
3.4
 主役2人の取っ組み合いがよかった。盾に使ったゴミ箱のフタを殴った相手を「大丈夫か?」と気遣ったり、咄嗟につかんだ缶を手放して代わりにパンで殴ったりという茶番。そういう細かい描写がナイス。明言は野暮かもしらんが要はセックスだ、これは。メイクアメリカグレイトアゲインの秘訣、ここにあり。クリスチャン・ベール側の夫婦愛をかなりしっかり描いたのは、そこら辺のケジメというかエクスキューズだろう。
 レース自体はフォード同士の対決でもうお腹いっぱい。ル・マンはエピローグで済ませるのかと思ったので、正直「まだやるのか」という気持ちで観ていた。特殊効果に頼りすぎだし、断片的で似たようなショットばかりで、少なくとも自分に臨場感を抱かせるには至らなかった。そういや、実際にレースを観ていたなら真の勝者は一目瞭然なのに、ゴール後にあっちの選手に皆が駆け寄るのはかなり違和感があったが、あれも史実なのか?
 
 人間描写のうまさは全体的に言えることで、一般道を爆速で走るという怒りの意思表示とか、爆発を目の当たりにした直後の整備士と息子の噛み合わない会話とか、ル・マン中のフェラーリとフォードの両社長の違いとか、重役陣でもアイアコッカは心情的にベール寄りな様子とか、若い整備士の未熟な所とか(ベールの妻に論破されていたり)。
 ただ、英雄のベールと盟友のマット・デイモンの描写に焦点をあてすぎて、他がだいぶ疎かになってしまった。両者にもある程度言えることだが、やや型にはまったキャラクターだ。また、現場と経営陣の対立が話の中心で、これまた登場人物をベタにしてしまうのだが、経営陣も途中からは影が薄い。ベールの相方ドライバーに至ってはモブ同然の扱い。フェラーリ側はじつは重要性低いから翻訳つけない程度でもいいけど。
 もっとも、テンポよく行くならそれでよいとも言える(夫婦のイチャイチャは若干長すぎ、多すぎたくらいだ)。つまり、「人間の性格や心理の掘り下げなんぞ文学にやらせておけ。映画はテンポよく行かなきゃ」という哲学である。評論家が「これは完全にホークス映画のチューンナップ」と書いていたが、なるほどと思った。たしかに、必要最低限の描写で説明を済ませて、話をテキパキ進めていくのはホークス的だ。