もものけ

DUNE/デューン 砂の惑星のもものけのネタバレレビュー・内容・結末

DUNE/デューン 砂の惑星(2020年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が大好きなんです。

そこは"デューン"と呼ばれた日中60℃まで気温が上昇する砂に覆われた惑星。
そこには"スパイス"と呼ばれる天然の希少な資源の眠る危険な惑星。
そして、生物全てが生きる為に、互いに争う"欲望"の惑星でもあった…。






感想。
一言で素晴らしい作品といえます。

新鋭監督で天才の一人ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が挑んだ、壮大な物語過ぎて製作が困難とされるフランク・ハーバートの小説"砂の惑星"サーガを、何度も構想された製作失敗に挑戦して映像化しておりますが、その映像美と表現力はウォルト・ディズニー社の"スターウォーズ"サーガを遥かに超えた、スペースオペラ作品の最高峰ともいえる芸術作品に仕上げており、才能の凄さにはファンとしての盛り上がりが付加されているとはいえ、個人的にはデビット・リンチ監督版を遥かに凌ぐ現代技術を駆使した、完璧な作品ではないでしょうか。
原作は未読であるので、小説の映像化としてどう作り上げたのかは分かりませんが、映画としてスペースオペラ作品の中では、最も素晴らしい出来のように思えました。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品は、映像美に凄まじい音響と音楽で情景を表現することに長けた監督であり、鼓動が早くなるほど物語へ惹き込まれて世界観へ没頭させる技術力が秀逸です。
音響と音楽のボリュームを高めにとって、背景にある会話を表現することによって、轟音で鳴り響く環境音と音楽がひときわ際立つので、登場人物達の危機感やシリアスな情景がより一層高められてゆきます。
とにかく大画面と大音響で鑑賞すればするほど、作品の凄みが増すという大作映画監督としての作り込みが今作品ではスペースオペラとしてまさにピッタリです。

レトロな操縦席のボタンなど、着想した時代を表している設定のまま、現代に合わせないでしっかり表現しつつも、最新映像技術のCGIを駆使して作り上げた昆虫の機能を要した乗り物が、重力を利用した加速や高速の羽根でのホバリングなど、デジタル表記に頼らないレトロ感を守りながら、映像的には最新という合わせ持った迫力が逆にリアルさを増しているので、なんでもCGIで綺羅びやかに表現する迫力のみの映像に固執した現代作品へ、古き良きスタイルを感性で伸ばす撮影テクニックへの構想を練った製作には、拍手喝采すらしてしまうほど。

近年の映像技術の発展は凄まじく、もはや映像化不可能とされるものはないと思えるほどではありますが、映像技術のみに頼った表現とは違った、作品への表現力が原作を表現することが困難といわれる所以であるように思えます。
これを成し得る数少ない映画監督としてドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、その才能に惚れてしまうほどの強烈に印象づける作風がとっても好みです。

ただの映像作品としてのみならず、哲学的感性やキャラクターの心情など、深いところまで掘り下げて作品にしていますので、難解であったり思考を働かせながらの鑑賞に疲れてしまったりするかもしれません。
でもドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は映画として、全ての要素を盛り込んでエンターテイメントとしても確立させられる天才監督なので、高い評価も分かる気がします。
それらの監督の感性が、この壮大とも言われるスペースオペラ作品を表現する一番のセンスにも思えます。

ここまで壮大になるスペースオペラなので、やはりキャスティングはシリーズ化する意味でも最も重要ですが、人気のみの役者を起用するのではなく、その見た目だけでも強烈なインパクトとカリスマ性すら伺えるキャスティングにしているのは見事。
公子として典型的な美しさで、アトレイデス家の後継者を演じるティモシー・シャラメは、完璧なほどの整った面立ちのみならず、高い演技力でも魅了する素晴らしい役者です。
レベッカ・ファーガソン、オスカー・アイザック、ジョシュ・ブローリン、ステラン・スカルスガルド、シャーロット・ランプリングなど大御所まで見事に全員が強烈なインパクトを放っている役者ばかり。
その中でも戦士として登場するハビエル・バルデムの演技力がピカ一でして、「ノーカントリー」でも共演したジョシュ・ブローリンと今作でも敵対する役柄というのも面白い。
キャスティングもここまで完璧な作品というのも珍しいと個人的には思いました。

銃で撃ち合う安易な発想ではなく、剣によって互いのシールドを破り合う戦いなので、キャラクターが無双する一騎当千を違和感なく演出されてます。
そこにコスチューム・デザインの芸術性が、異星人と人間の戦いの構図のように違いが現れていて、乱戦になってもひと目で分かるように配されています。
シールドなしの陣であっさり敗れてしまって捕囚になるアトレイデス家など、妙に引っ張るのではない展開も相まって、映像の迫力のみで押してゆく作品と違ったアプローチでも、充分にキャラクター達の心情に迫れる演出も見事。
それでいて、サンドワームに襲われて逃げるシーンは、映像の迫力で演出しながらも姿を見せない怪物なのに、背筋が凍るほどの緊張感も与えてくれる凄さ。
演出という魔法を際限なく利用した秀逸な手法です。

相手を操る"声"という超能力を、"声色"で変化させる表現も面白いです。
こういうのは小説での表現はどうなっているのか、映画を鑑賞して逆に気になるところであります。

虐げられた人々が強大な悪に立ち向かう物語が多いですが、公爵一族の公子が滅ぼされた家と人々の救世主として立ち上がる"貴種流離譚"というストーリーに、宗教や精神世界観を絡めた終末論を神話としてスペースオペラにしており、自由を掛けた正義の戦いというものよりも、高貴に満ち溢れた騎士道物語のようでSF作品ながらも古代文明観で描く壮大なドラマが魅力的です。
帝国側という絶対"悪"の醜い見た目と、美しく整った面立ちのアトレイデス家の面々との対立構図に勧善懲悪としてのわかり易さがありますが、第三勢力の人々が救世主を求める構図もあり、複雑なストーリーにしているので作品としての質が上がっている気がします。
この辺りは"スターウォーズ"サーガも同じですが、突然運命を知らされる展開よりは、自らの運命を知りながら終末論へ抗う宗教観タップリな物語のほうが、より壮大さを醸し出していて面白い気がしました。

"僕の道は砂漠へと続く…"
そうして砂漠の民と共に向かう、ポール・アトレイデスを背景にエンディングへと続きます。
拍手喝采でした!!

"砂の惑星"では、宗教観はキリスト教ではなくイスラム教をモチーフに描かれているといわれております。
白人至上の勧善懲悪世界を描くのではなく、有色人種である砂漠の民の救世主として、希望を背負って歩き出す主人公へ、黄色人種である私の希望も込められるような気がする世界観が何ともいえません。
なんと二部構成のサーガとして製作されるらしく、後編への期待感が高まるラストでございました。

ゆっくり丁寧に描いているのではないのに、キャラクターが一人一人の個性を強く浮き彫りにしており、領主たちの騎士道精神を写すかのようなダンカンの若き公爵を守る為の壮絶さが伺える最後など、次々と死に絶えてゆく見事に立ったキャラクター達の生き様が、それぞれの姿と共に物語への驚嘆となって観客へ訴えかける演出の見事さには脱帽。

個人的にはスペースオペラ作品サーガの中で、最も背筋に響くほど手に汗握る鑑賞となる作品へ、5点を付けさせていただきました!!

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の才能が余すことなく詰め込まれた"砂の惑星"リメイク版。
とんでもない作品へと続く後編へ期待を否応なしにさせられてしまうほど、とてつもないものを見せられたと思えるほど、久しぶりに感動いたしました!!
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