ひこくろ

ペトルーニャに祝福をのひこくろのレビュー・感想・評価

ペトルーニャに祝福を(2019年製作の映画)
4.3
自分に自信がある人って、現実にはどれくらいいるものなんだろう。

面接に落ちまくり家に引きこもっているペトルーニャは、自己肯定感がものすごく低い。
そんなことを口に出したりしないし、虚勢を張ったり、強がったりもするけど、その自信のなさは疑いようがない。
彼女の言葉の端々に、行動のいちいちに、彼女の不安さが溢れている。
それがはっきりと伝わってくるだけに、胸がぎゅっと苦しくなる。

物語は、彼女が、男たちが川に落とされる十字架を求める祭りを見つけて、自ら川に飛びこみ十字架を手にしてしまうところから、急激に動き出す。
幸せになりたい(それは自信を取り戻したいと同義語だと思うが)という一心から行動を起こした彼女に対して、一斉に非難の目が向けられる。
誰も彼もが、彼女に「十字架を返せ」と迫り、わけもわからないまま彼女は警察に拘束されてしまう。
彼女個人の想いや悩みだったものが、いつの間にか社会に根深く潜む女性差別として炙り出されてくる。

女だからという理由で彼女は徹底的に批難される。
が、「なぜ女ではいけないのか」という理由は、誰一人として語ろうとしないのだ。
ただ「女だから駄目なのだ」と一方的に責められる。
それでも彼女は十字架を返そうとはしない。
その理由が「女だから」ではなく、「私のものだから」というところに、この映画の凄みとか面白みがあるのだと思った。

どこまでを自分を貫き通した彼女が最後に取った行動がすべてを物語っている。
それはとても清々しくて気持ちのいいものだと感じる。
とともに、差別の問題ってのは、こういう面から考えていくべきものなんだろうとも思わされる。
女性差別に限らずだ。

あと、映像のセンスがとてもいい。
効果的なアップの使い方に、引きのシーンの上手さ、色遣いや画角の工夫、構図の絶妙さ。
途中、何度も絵画のような美しいシーンがあって、ひたすら感心してしまった。

内容はもちろん、画としてもとても惹かれる映画だった。
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