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大菩薩峠のKKMXのレビュー・感想・評価

大菩薩峠(1960年製作の映画)
3.5
 ずっと気になっていたカオス時代劇をついに鑑賞したぞ、Woo!

 本作は中里介山原作『大菩薩峠』3部作の1作目。虚無に蝕まれた剣客・机竜之助を軸とした群像劇?です。本作の特徴は、いろんな話が適当に盛り込まれていて拡散しており、作品としての牽引力が薄い点です。3部作であり、当時のスター市川雷蔵が主演なので、きっと製作陣は適当に作っても客が入ると踏んでいたのでしょう。
 とはいえ、一言でつまらないとは言えない雰囲気なのが侮れません。本作において何が面白いかと言えば、主人公の・机竜之助のキャラクターに尽きます。この男、アナーキーにも程がある。


 竜之助は物語の冒頭、いきなり大菩薩峠で行きずりの巡礼のお爺さんを辻斬りで斬殺します。その後、剣の試合で対戦する相手の妻をレイプし、試合においてその相手を木刀で撲殺!相手の妻をそのまま手籠にして江戸に行き、妻が反抗的になったところでこの女も斬殺!血に飢えすぎだろ竜之助。
 ちなみに竜之助は芹沢鴨と連み始めて、そのまま新選組として京都に登っていきました。近藤・土方ではなく芹沢鴨というのがさすが竜之助と言わざるを得ない。クズだわ〜。

 で、この手のアンチヒーローはそれなりの背景があったりします。竜之助の後継キャラである眠狂四郎は転びバテレンの子どもという生まれながらにして挫折を運命づけられており、そこに狂四郎のキャラの説得力が担保されますが、竜之助には何も無いです!親父さんも普通の人で、周りがみんな「アイツはヤバいな…」と単に敬遠している感じ。それはそれでリアルですが、しかしまぁここまで無茶苦茶だとキャラに深みが出ませんね。現在、誰も大菩薩峠など読み継いでいませんが、この辺の無茶苦茶さが現代において通用しないからかも知れません(未完で長すぎるというのもあろう)。


 なので、何でこんな奇怪なキャラが生まれたのか気になって調べたところ、どうも原作者・中里介山は社会主義者であり、大逆事件のトラウマが本作に影響を与えた説があるようです。実際、大逆事件が1910年、幸徳秋水の刑死が1911年、大菩薩峠の連載開始が1913年。時系列的には納得できます。
 つまり、理想への挫折が虚無でカオスな剣客を産んだと考えることができそうです。大逆事件は社会主義者への弾圧であり、介山も虚無的になったのかもしれません。で、『大菩薩峠』は流行したとのことであり、そう考えるとこの出鱈目なキャラは当時の世間に受け入れられていたということになります。もしかすると当時の社会も閉塞的だったのかもしれません。


 このように机竜之助は原作者の挫折がおそらく生み出した負の怪物なのですが、意外とウジウジしており、変に小心なのも情けなくてダサいです。幽霊(おそらくこれまで斬ってきた人たち)に怯えてビクビクしたり、自分より強い相手に対しては戦いを挑まず逃げたり。
 あと、自分が斬り殺した妻にはひとり息子がおりまして(ほったらかして京都に行ったため当然養育はしていない)、「息子に剣術はやるな、と伝えたい」と微妙に後悔みたいなものが感じられます。これを人間味といえばそうかもしれませんが、もうちょい突き抜けた悪の方がスカッと面白かったのに、と思います。

 本作の演出面はかなりカッコいいです。陰影に富んだ絵面で、刀を構えた竜之助が刀だけギラリと光り竜之助は完全シルエットとか、思わず唸る迫力でした。
 一方、雷蔵の殺陣は迫力ないね!彼はフィジカルがないから華麗なカウンター戦法で、それが個人的には退屈です。ミフネみたいにズケズケ近づいてガタイのデカさでブッ殺すみたいな方が好きです。
 竜之助の父役にスキニーオールドメンこと笠智衆が登場。智衆が出てくると和みますなぁ。とりあえず3部作すべて観たため、順次感想文アップします。
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