さんぴん

ラストナイト・イン・ソーホーのさんぴんのレビュー・感想・評価

4.0
『ベイビー・ドライバー』や『ショーン・オブ・ザ・デッド』
などのエドガー・ライトが監督を務めたスリラー。
ファッションデザイナーを夢見るエロイーズは、
ロンドンのソーホーにある専門学校に入学し、
1人暮らしを始めた。ある夜エロイーズは、
1960年代のソーホーで歌手を目指すサンディの
夢を見る。サンディの人生を追体験するようなその夢は、
やがてエロイーズの精神を蝕んでいくことになる。
.
エドガー・ライト作品となれば観ない訳には。
結論めちゃくちゃ面白かったです。
作家性と言ってもいい、たくさん流れるBGMと
映像とのシンクロ率。ベイビードライバーの時に
もはやミュージカルと書きましたが、今回も同様に
ミュージカルと言っても過言ではない作品でした。
しかも今回流れる曲は基本全部暗めというか、
悲しみが深い系、夜中のスナック感溢れる曲が
多くて、決して明るい印象ではないのも特徴的。
これはもちろん、今回のお話はメインがサスペンス、
演出がホラーということもあってのこと。
そう、今回結構怖い映画になってました。
.
ロンドンを夢見た少女が、同じくロンドンを夢見た
過去の少女の記憶とシンクロしてしまい、過去の
事件を追体験し、徐々に精神を蝕まれるというお話。
2人とも、きらびやかなロンドンの生活を夢見た
ものの、現実は上手く行かず、ロンドンに馴染めない。
こういった共通項があるので、シスターフッドもの
みたいなお話の作りにもなっています。
過去の事件を解決するために現代で奔走する場面とかね。
過去の事件というのが、ロンドンで歌手になりたい
サンディ、ショービジネスの世界に飛び込むものの
男達に搾取されて挙句殺されるというもの。
エドガー・ライトいわく、10年以上前からこの話の
着想はあったと言っていますが、Metoo運動が
まだまだ世界的に広がりを見せる中、決して過去の
負の歴史の話というわけでもないのが悲しいところ。
実際エドガー・ライトも、脚本のクリスティも
ショービジネスの世界に居て、サンディのような
女性たちを見なかったわけではないと言ってるし、
更に悲しいかな日本でもニュースになってるし。
決して映画の中の悲しい話、という訳ではなく
ほぼ完全な地続きとして現実と繋がる話でもあるから
お腹にはどしっと来るものがあります。
ショービジネス、という訳でなくとも、エロイーズが
ロンドンにやってきた時のタクシー運転手の目線、
ミラー越しとはいえ気持ち悪かったです。
.
また物語全体を通して、エロイーズのお母さんが
何故ああなったのかとか、あの警官の話とか
映画内で語られることはなくても、観客の想像で
補完させるような奥行があるのも良かったです。
ちょっとだけ、ミスリードのためのミスリードみたいな
場面があって、ちょっと浮いてる様に思えましたが。
まあそんなことは置いといて、スリラー、サスペンスとして
序盤から細かい所に伏線が貼られていて、あの言葉の
意味、あの置物、あの場面といろんなものが最後に
繋がっていくのはスッキリしました。
序盤から特徴的に映る赤と青のネオンの光が
窓に映るところ、あれがラストにはどんな光が
窓から差し込むことになるのかとか!
あとラストのことをとても言いたいんですが、
ものすごくネタバレ厳禁な映画だと思うので伏せます。
エロイーズとサンディの擬似姉妹感のおかけで
ラストもちょっとしんみりとさせます。
「お前が望んだんだろ!」「私はこんなの望んでいない!」
このやり取りの儚さったらありゃしない。
.
エンドロールに流れるソーホーの街並みも、静止画と
思ったらロックダウン中に撮影した映像ですって。
この現状を後世に残さなくてはという監督の思いで
映画に入ったそうです。
何はともあれ、面白くて見応えのある映画は間違いない。
レンタルも始まりましたし、是非是非オススメです!
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